[対談#4]介護業界にもマーケティング的発想が必要(原田匡)

介護業界にもマーケティング的発想が必要」ってことが原田さんが訴えたいテーマの一つなのかもしれません。マーケティングというと「広告」「販促」「集客」と考えがちですが、まずは「どういう価値を提供できるのか」ということを自分たちが理解して、具体的な行動とともに、発信していくことから始める必要があるのかもしれませんね。株式会社ケアビジネスパートナーズ代表取締役の原田匡さんをゲストに迎えた「熱いぜ!ミドルマネジメント」対談もいよいよ佳境です。

熱いぜ!ミドルマネジメントとはみどり会の冊子企画として生まれた”ミドルマネジメントへエールを送る”をテーマとした対談企画。対談の様子を全文テキスト起こしで掲載しています。(取材、撮影:平世将夫)
?原田匡さんのプロフィール
株式会社ケアビジネスパートナーズ 代表取締役
京都大学法学部卒業。日本社会事業大学専門職大学院 福祉マネジメント研究科ビジネスマネジメントコース卒業。経営コンサルタントとしての経験、並びに自らの起業経験を融合し、現在は介護市場に特化した経営支援活動を全国で展開している。介護業界に対する深い知見と全国に幅広い事業者ネットワークを持つ。

視点を複数持つことで、日本を豊かにしていくための眠っている資産に出会えると思うんです

原田
でもそれはあくまでも介護保険事業の観点なんです。ちょっと視点を変えて『介護事業はどうなんですか?』っていうところに視点を持っていく、わたしはまだそこに産業としての可能性がたくさん眠っているんじゃないかと思っています。

宮嶋
視点を複数もつことって重要ですね。

原田
そうなんです。複数の視点を持つことは、恐らく介護保険事業だけをみつめてやってきた方々からすると、まったく想像できないというかね。

宮嶋
人は経験の延長線上で思考して、物事を捉えがちですものね。

原田
そういうところって誰しもにありますよね。でもそこで視点を複数持つことで、これからの日本を豊かにしていくための、沢山眠っている資産に出会えると思うんですよね。

宮嶋
まさしくイノベーションですね。

原田
介護事業者の方々、それぞれに眠っていると思うんですよ。というもの、ぼくも介護事業をやっていて思ったことなのですが、わたしまだ現場で仕事している頃に、ご家族の方とご自宅での介護のときに腰を痛めたとか、何が困ったとか、色々聞くわけですよ。

宮嶋
はい。

原田
そんな経験って、うちの現場はみんな経験しているよと。『こうすればもっと楽に体を起こすことができるよ』っていうノウハウを持っているんですよね。そこで、一回みんなに集まっていただいて、ご家族の方に僕たちはが持っているノウハウをお伝えをする会をやろうってことになってですね。実際に開催したんですよ。

宮嶋
先ほどの自分たちにとっての当たり前が、他の人には当たり前じゃないって話しですよね。

原田
そうそう(笑)で、会を開催したらみなさんびっくりされて。「こんな楽に、こんな大きな人を起こせるんですか!」みたいな反応がほんと多くて。それからしばらくうちの職員のことを先生っていいはじめたんです。

宮嶋
へぇー(笑)

原田
「止めてくださいよー」って言っていたんですけれども(笑)でも、それって彼らは当たり前にやっていることなんですよね。この情報ギャップたるやすごいですよね。

宮嶋
そういう情報、知識の差ってありますよねぇ。

原田
些細なことですけれど、そういうことを伝えることから始まるというかね。出発点なんて、いつでも小さな始まりじゃないですか。それを積み重ねることで、ドンドン変わっていくわけですから。

宮嶋
ほんと、そうですよね。

「え!」ってところが、これからもっと重要になってくる。それで世界が広がってくる

原田
今はミニマムのインフラが整備された時代だと思うんです。そのミニマムインフラを支えるのが介護保険なんだという認識で、その上に何を積み重ねて提供していけるかということを考える時期なんじゃないかな、と思うんですね。

宮嶋
うん、確かに。

原田
別に国の肩を持つつもりはないんです。でもやっぱり財源が枯渇することが分かりきっている中で、そこに依存することっが無理じゃないですか。依存度が高いから、保険制度が変わることに対して「ワーワー」と圧力をかけようとする。それで望むような方針がでてくればいいですけど、ない袖は振れないわけですよね。

宮嶋
一つのことに依存しきちゃうのは危険ですよね。

原田
だからこそ、違う発想で考えていかないといけないですよねってなるんです。介護業界にとってすごい大きな課題じゃないかな。

宮嶋
なるほど。国ももっと発信したほうがいいですよね。介護保険制度はあくまでもミニマムのインフラで、そこから先は人によって異なるんだよって。

原田
そうですね。

宮嶋
医療って、先ほど仰られていたように、例えば癌がみつかりましたとなった場合の選択肢でいえば、治療方法って限られていますよね。あとはするか、しないか判断してくださいってだけで。ステージによっては投薬しない、とかもありますけれど。

原田
えぇ。

宮嶋
対して、介護の場合は残った症状によって全部変わるじゃないですか。その人の生き方によっても変化する。医学的には同じ症状でも、喜ぶポイントとか尊重したいポイントってかなり異なると思うんです。そう考えたときに、より多様化していくんでしょうねってなると、ぼく個人の考えとしては、そもそも保険適用がしにくいサービスなんじゃないかなと感じます。

原田
そうですね。適用しにくいと思います。だから本当に最低限の生活を支えるレベルのものでしか機能しないと思うんですよ。介護保険制度自体が。その認識がこれから変わってくるところじゃないかなぁと思っています。

宮嶋
喜び、感情の見出し方って、万人いれば、万ありますよね。諦めてしまって、もうこれでいいんだ、社会には出ないっていう選択肢もあります。反対に社会にもっと出たい、存在を問いたいというのもあります。

原田
そうですね。

宮嶋
例えば何かしらの障害をお持ちの方の場合って、ミニマムで障害保険がでて最低限の生活保証が、保険の範囲内でされています。で、そこから先どう生きるかって結構自由ですよね。

原田
はい。

宮嶋
障害をお持ちの方って障がい者向けの用具をつくる会社を創業されたとか、社会に訴えかけている方って沢山いると思うんですよね。つまり社会に対する関わり方が多様化していると考えられるんです。介護はもちろん、程度にもよるんでしょうけれども、そういう部分ってあるんでしょうかね。

原田
そうですね。これからでてくると思いますよ。介護の世界って奥が深いなぁってスゴく思うことが沢山あります。正直、業界に入って知ったことで、入るまでは想像でしかなくて、全然実感できなかったのでね。わたしのように比較的介護業界のことを勉強して入った人間でも、「えぇー全く違うんだ!」っていうのが沢山あるんです(笑)

宮嶋
うんうん。

原田
「え!」ってところが、これからもっと重要になってくる。それで世界が広がってくるっていうかね、そう思いますよ。

宮嶋
想像と現実のギャップにこそヒントがあるってことですね。

介護の世界でも個別対応は、今後も決してなくなりはしません

原田
例えば‥わたしが介護業界に入ってから、「あぁ、面白いな」って思ったことがあります。

宮嶋
はい。

原田
ある男性のご利用者の方がいまして。その方が全然デイサービスに慣れてくれないんですよ。その時に「どうして慣れてくれないんだろう」って職員は思いますよね。で、懸命に声かけて、「楽しいよ!」って言ったりするんですけど、それで「おぉ、楽しいね」ってなるわけないんですよね。

宮嶋
うん、うん。

原田
その時にその方の生活履歴や人生を遡っていくと、かつてはめっこり仕事をされていた営業マンだったということが分かったんです。キャリアを知った時に、あぁそうだったのか、と。その時に、そのキャリアを起点としてその人にとってのQOLを高めることってどうすればいいだろうって考えたんですよね。

宮嶋
キャリアってのは経験や知識ですものね。

原田
そうなんです。で、人生の大半を費やしてきているじゃないですか、仕事って。で、辿り着いた一つの仮説が『この人はプライドを持って仕事をしてきた。そして、そこが自分の気持ち拠り所なんじゃないか』っていうことだったんです。

宮嶋
なるほど。目のつけ所が面白いですねぇ。

原田
その仮説から会社は面白いことをはじめたんですよ。

宮嶋
ほうほう。

原田
その方のところにいって、「今日伺ったのは、実はデイサービスに来てくれっていう相談じゃないんです」と。

宮嶋
はい。

原田
「実はいまうちの会社は業績が落ち込んでいて、大変なんだ」と話すわけです。そして「ついては、●●さん、あなた営業がすごい得意だって聞きましたよ。ぜひご経験を活かして、うちの顧問になってくれないか」って言ったそうなんです。

宮嶋
へえーっ。

原田
で営業顧問って名刺をつくって、持っていったそうなんですよ。

宮嶋
やりますねぇー。

原田
その方も「おう、じゃあおれの営業ノウハウを教えてやるよ」みたいな話になって(笑)。その方と一緒に営業活動についてまわるんですって、ケアマネージャーさんと。

宮嶋
生きがいを見出すわけですねぇ。

原田
そうなんですよ。そのことによってこの方は一一所懸命役に立とうとするわけですよ。で、事前にケアマネージャーさんが行って、「今日ご利用者さん一緒なんで」って説明をして。話をして連れていくと、むこうもちゃんと対応してくれるんで、「いや~、よくわかりました!」とか言ってくれる。

宮嶋
目に浮かびますねぇ(笑)

原田
「な、お前営業ってこうやるんだよ」って言われて(笑)、なんだか指導された感じになっていきますから「ありがとうございます!」とか言いながら、毎日やってるわけですよ。

宮嶋
なるほどなぁ。

原田
介護って一つ一つがそういう世界だと思うんですよ。でも現場でこういうことが起こってるって見えないでしょ。作業レベルでしか見えないし、伝わっていないじゃないですか。

宮嶋
確かに。

原田
そういう広がりがあるということが、とても面白い業界だなぁと思っていまして。そういうやりとりや個別対応ということが、今後なくなるのかといえば、決してなくなりはしませんよね。

宮嶋
逆に増えそうですよね。

原田
さっきの医療と介護の話で言うなら、医療従事者の方がどこまでできるかって話になります。勿論できる方もいるでしょう。だけども全員がそうかといえば、かなり属人的だと思うんです。

宮嶋
はい。

原田
そこを理解して、浸透させないといけない、となると時間と頭の中の発想の転換に相応の時間が必要になってくると思います。だけどそれを自然にやっているのが、介護業界の方々なんですよね。

宮嶋
現場にニーズがもう顕在化しているわけですしね。

自分たちができること、提供できる価値を、もっと自身が理解して発信していくだけでも業界は変わっていく

原田
自分たちができること、提供できる価値をもっと、自分たち自身が理解して、発信していくだけでもこの業界は全然変わっていくと思うのです。なので、やっぱり今回の介護保険制度の改定を、『いいきっかけ』という風にとらえるべきではないかなぁと思います。不安はいっぱいありますけれどね。当然ながら。

宮嶋
その一つとして『より利用者様の歴史を理解する』ということですか?

原田
そうです、はい。関係性をしっかり理解すること。その方の人生、生活の背景とかを理解して、そこからどういうアプローチをしていけばいいかをきちんと考えること。これってソーシャルワークの基本的なかたちじゃないですか。

宮嶋
そうですね。

原田
ソーシャルワークってとっても大事なんですけれども、日本ではソーシャルワークっていうのは発展してないんですよね。アメリカですと、相当地位が高いソーシャルワーカーもいらっしゃるんですが、日本でソーシャルワーカーっていうと医療の下にくっついている世界じゃないですか。

宮嶋
そういうヒエラルキーでみてしまう風潮ってありますね。

原田
事業者を探すときにも、とにかく場所で探すだけ、みたいなところもあります。でも事業者側からも、本当の価値をこれからつくって、どんどん発信していく。ウチは『こういう考えで、こういう介護をしてるんだよ』って理解していただけると、「この会社だったらうちの親を助けてくれるかな」って思うじゃないですか、人って。

宮嶋
いやあ、そのとおりですよ。

原田
にも関わらず、そういう情報は全く出てこないんですね。いまの介護業界。私たちとしてはとても悔しい。

宮嶋
確かにおっしゃる通りで。いくつかの介護事業者のウェブサイトを見ても、機能やサービスだけというか、実際「こういうことします」ってパンフレット的な説明だけが掲載してあって。その裏にある、文化とか主旨、事業者としての価値観はあまり伝わっていないような気がします。

原田
おっしゃる通りですね。だから、“うちはデイサービスです”、“うちは訪問介護です”っていう、もう本当に定義を発信しているだけでしかないんです。

宮嶋
そうですよね。機能を伝えるだけであって、実際にその先、よくいうじゃないですか、家を購入するって、家が欲しいんじゃなくて家の中で展開される生活がほしいんだって。

原田
同じですよね。家はまさにライフスタイルを買っているわけじゃないですか。介護も残り少ない人生のライフスタイルを買うわけですよね。であるなら、ライフスタイルを支援するために“私たちはこういう風に努力していきます”っていうものや、具体的に”こんな方がこんなことで関わっています”といったものがものが本来はあるべきだと思うんです。

宮嶋
うんうん。

原田
もちろん介護という意味においてですよ。介護保険なりの理念がありますから、まずはそこをちゃんとクリアしなければいけないと思うのですが、わたしはもし自分の親の介護をしなければいけないことに直面したときにはそういうことを考えますよね。

宮嶋
そうですよねぇ。

原田
この我が侭な親父をどうやって笑顔にしてくれんだろうとか(笑)、最後はあまり苦労させたくないなぁとか。やっぱりそういうことを思ったりしますね。だけど、そういうことを調べたり、比較できるような選択肢がいまはないんだと思います。

(以降、複眼思考で自分を客観視しようにつづく)