[対談#2]介護離職の話は、送り出す会社側からの話ばかり(原田匡)

介護離職の話は、送り出す会社側からの話が多いもの。しかし介護事業者からのサービス情報の発信によって利用者がもっと「知ること」ができれば介護離職そのものが減少する可能性も。そのためにはなにが必要なのでしょうか。今回の「熱いぜ!ミドルマネジメント」には株式会社ケアビジネスパートナーズ代表取締役の原田匡さんをゲストに、介護業界と介護離職についてお伺いいたしました。

熱いぜ!ミドルマネジメントとはみどり会の冊子企画として生まれた”ミドルマネジメントへエールを送る”をテーマとした対談企画。対談の様子を全文テキスト起こしで掲載しています。(取材、撮影:平世将夫)
?原田匡さんのプロフィール
株式会社ケアビジネスパートナーズ 代表取締役
京都大学法学部卒業。日本社会事業大学専門職大学院 福祉マネジメント研究科ビジネスマネジメントコース卒業。経営コンサルタントとしての経験、並びに自らの起業経験を融合し、現在は介護市場に特化した経営支援活動を全国で展開している。介護業界に対する深い知見と全国に幅広い事業者ネットワークを持つ。

俯瞰した視座、視野でみることができるかどうか、が存続への大きなキー

原田
具体的にいうと、介護旅行っていうものを、いまもっともっと盛り上げていこうって話があります。歳を重ねていても、旅行に行きたいとか、リフレッシュしたいという気持ちはすごくあるんです。そういうところに新しいQOLをサポートする種を見出していくってことですね。

宮嶋
目のつけどころですね。

原田
その他に、保険外サービスを徹底的にはじめる方もいらっしゃいます。また面白い取組として『VIPケア』といって、とにかく普通の介護保険適用のありきたりのサービスじゃ嫌だ、というニーズに対応するサービス。「俺はもっとお金払うから、もっといいサービスをやってよ」という方々に対するサービスを提供する会社さんは沢山あります。

宮嶋
へぇーっ。

原田
今までは最低限のインフラづくりのところの範囲でやってきて、その範囲内でみんな努力しているんだと思うんです。でもご利用者の本当のニーズを考えたとき、少しづつバリエーションが生まれてきています。少し引いて、俯瞰した視座、視野でみることができるかどうかが、その事業者のこれからの存続への大きなキーになってくる。逆にそういう情報をもっともっと発信していくことによって、多分ご利用者のご家族にとっても、選択肢が増えてくると思うんですよね。

宮嶋
どこに着目するかと、どの立場から視るかってのは大きなポイントですね。

原田
そうなんです。で、こう言ってるけど、ネットで検索すると『こんな会社があるじゃん』『ここいいんじゃないの』って言えないんですよ。どうして?っていうと、情報がないんですよね。

宮嶋
なるほど~。

原田
そういうところが、これから変化して多様化するだろうと期待をしているところです。

前田利用者にとって、介護事業者の選択肢が増える、その延長線上には、先ほどおっしゃっていた「産業化」があるってことですよね。

原田
そうだと思います。

前田なるほど、そこかぁ。でも事業者が挑戦するには勇気いるよね。決断するって勇気だもんね。原田さんはそういうところを全部突き刺していっているわけですね、啓蒙活動しているわけですよね。

原田
そうですね。

前田全国飛び回って活動しているわけですからね。で、成功事例もどんどん出てきている。この話はみどり会の誌面としては面白いよね。購読者の方はちょうど介護に直面する世代の方が多いでしょうから。いやぁ、でも業界がそこまで進んでいるとは思わなかったね。

「介護保険を使った介護事業がしたかった?」って話をするんです

原田
そうですね、情報もあまりでてきませんから。私がセミナーでみなさまに申し上げるのは、ちょっと半ば挑発的に言うんですけど(笑)、「みなさんはいつの間に介護保険屋になっちゃったの?」という話をするんです。

宮嶋
なるほど

原田
みなさん介護保険屋がしたかったの?」って。

宮嶋
うん、うん

原田
正確にいうと「介護保険事業」じゃなくて「介護保険を使った介護事業」ですよね。別に介護保険でなくたっていいんでしょ?ただ、介護保険を使った方が、ご利用者負担も少なくて、経営的にも助かるから介護保険を使っているに過ぎないわけで、介護保険屋じゃないよね?っていう話があったりとかですね。もっと言うと、本質的には介護事業ですらないよね、という話になるんです。

宮嶋
うーん

原田
地域の高齢者の方に「○○○○」という価値を提供することがみなさんのお仕事とするならば、その価値を提供するための手段の一つとしての介護で、その収益源のひとつが「介護保険」であり、「デイサービス」であり、「訪問介護」であり、っていう世界じゃないんですかね。それがいつの間にか手段が目的に変わってしまって「介護保険」を貰うことが事業の目的になってしまっている。

宮嶋
なるほどなぁ。

原田
まぁ、よくあるパターンだと思うんですけれども。これから気がついて動きはじめる方々にとっては、とても面白い世界が待っていますよ。だって、マーケット伸びますからね。

宮嶋
うんうん。

保険制度が全てをカバーしている、という勘違い

原田
間違いなく伸びますもの。身近な話ですが、こんな例があるんです。東証一部に勤めていらっしゃるまさに今50代手前のまさにミドルマネジメント層の方の話です。その方は一人っ子で九州に実家があって、お母さんが一人で住んでいるんです。で、年配の方の一人暮らしは、何かと心配じゃないですか。

宮嶋
地元を離れていると、なおさら心配が多いですものね。

原田
ですよね。で、その方が言うには「お金は自分が出すから、本当に親が求めるサービスをやってあげてほしい」って。

宮嶋
なるほど。

原田
「お金は僕が東京で働いているから出すから」とおっしゃっているんでよね。だけれどその頼るべきサービスが見えないし、ない。地元の介護事業者の人に相談しても通用しないって。だからすごく苛立ってしょうがないっておっしゃっているんですよね。

前田すごくわかる!

原田
「おかしいよね、この業界って」って言われましてね。「ホントそう思います」ってぼくも言いましたけど。

宮嶋
確かに保険制度って本来ミニマムなものですものね。

原田
そうなんですよ。

宮嶋
セーフティーネットでしかないはずが…。

原田
保険制度が全てを覆い尽くしてる、カバーしている制度だ、とみなさんが思っちゃっているんですよ。たぶん医療の流れが大きかったと思うんですよね。あんな高い、いい単価で貰える、しかも自分たちのプライドもいい意味で保つことができる環境、前例があるという流れがあって、次に介護というものが来ている。その結果として、セーフティーネットというミニマムな概念ではなくて、オール(ALL)になっちゃっているんです。

宮嶋
流れとしては、とても理解できちゃいますね。

原田
介護事業者の方も、今まではそれでやってこれたんです。だけれど、早くからそうじゃない、と分かっている方々は先手を打たれているので、全然違う経営をしているんですよ。だけどまだまだ少数派です。圧倒的大多数の方々は、まだ気がつかない。未だに気がつかないですねぇ。

宮嶋
そうなんですねぇ。

原田
だから介護保険の細かな報酬がどうだこうだとかばっかり言っているわけです。それも大事なことですけれども、ものすごく視野狭窄になってしまっている状況です。しかも、それをコントロールするはずの地域の包括とか自治体には、そういう概念ないですからね。

宮嶋
事業者にとってはコントロール外のことに、依存してしまっているのは危険ですよね。

原田
それは無理というか無謀でもありますよね。今回の報酬改定によって、事業者は今までに比べたら厳しくなるかもしれないけれども、まさに変革するチャンスになるんじゃないかなとも思っています。

宮嶋
なるほど。変化せざるをえないわけですからね。

原田
そこに気がつけばさきほどお話した通り、この業界は間違いなくマーケットは広がるじゃないですか、これから。もっと視野を引いて眺めてみると、当然日本から飛び越えてアジア地域、その他の地域に向けて、世界進出を考える会社もでてくる可能性がもあるわけです。そういうところがこれからもっともっと発展していくんじゃないかと思いますね。

『産業化』とはお客さんの方を向き、高い水準に対応していく延長線上に実現されるもの

宮嶋
確かにぼくの実家は新潟県で、田舎の方すから、実際親が頼るべき場所はかなり限られてくるはずですよね。地域格差って医療の世界でもあるんでしょうけれども、介護も十分あるんですね。

原田
ありますねぇ。

宮嶋
お話を聞いていると、『産業化』っていうのはやっぱりお客さんの方を向いて、然るべきお客さんの要求、水準がある程度高いことに対応していくということ、そのためには啓蒙されていかないと実現していかないわけですよね。

原田
そうです、そうです。

宮嶋
その視野、視座にたどり着けないという意味では、やっぱり我々の年代が要は“介護保険だけじゃないんだ”っていう意識を持つ必要があるんでしょうね。なんていうんでしょうか、やっぱり医療の延長だって意識があるからなのでしょうかね。

原田
私はそう思いますね。

宮嶋
うーん。そうなるとやはり、その人その人に応じて欲するものって一体なんだろう、ってことに、よりフォーカスする必要がまずはあるのでしょうね。

原田
おっしゃる通りですね。だから、やっぱり、そのあたりのことが変わってくるのは、これからですよ。画一的なサービスを受けたいわけじゃない。月並みな話ですけれども、団塊の世代がこれからどんどんお年を召していくなかで、色々な要望がでてきて、バリエーションが増えてくると言われているじゃないですか。

宮嶋
ニーズの多様化とですね。あるいはニーズの掘り起こしですかね。

原田
今まではご利用者の方々ってご希望をあまり言わないですからね。みなさん、基本我慢してますから。

宮嶋
あぁ~。

原田
今まで、戦中世代の方々っていうのは、我慢になれていますし、“我慢することが美徳である”という風に、これはすごく定説な話ですけれども、やっぱりそういう価値観をお持ちの方が多いなぁと感じますね。

宮嶋
なるほど。世代による価値観の差異ってありますものね。

前田利用者の志向が明らかに変わってくるんですね。

原田
これから変わってきますね

前田世代でいうと、ビートルズ世代ですね!

原田
そうです。そうです。

宮嶋
そっか、なるほど。ってことは、現在の65歳を軸として考えると、±2-3歳の人たちが、5年10年後に。

原田
そうです。そうです。何となく浮かぶでしょ?(笑)

前田健康寿命伸びていますしね。

原田
そうです。

前田そういう捉え方あんまりなかったなぁ?

宮嶋
確かにいままのおじいちゃん、おばあちゃんって黙ってしょうがなく我慢して…って感じですよね。そうじゃない人もいるわけですが。

前田うん、でも多数なのは前者の方かなぁ。

原田
「お世話になってます」感覚じゃないですかね。

宮嶋
そうですね

原田
「もう、こんな風にここまでやってもらって」とかね。いまでもしょっちゅうご利用者の方が、職員にお金をくれるんですよ。お小遣いとか言ってね。

宮嶋
へぇーっ。

原田
「もうホントありがとう、とっといて。内緒にしといて」って。で断ったら怒るので、「ありがとう!」ってひとまず受けとって。後からご家族にそっと返すっていうことをよくやるんです(笑)

宮嶋
へぇ~。

前田そうなんだぁー!

原田
はい。それで皆さん気持ちが済むんですよ。ホント申し訳ないって気持ちがそこに出てきますので。

サービス提供側からのアプローチ、情報を発信で介護離職を減らすことができる

宮嶋
あれですよ、ぼく、言われたのが、介護の業界って、「ありがとう」が「おはようございます」と同じなんですって。

原田
そうです。そうです。

宮嶋
「おはようございます」「こんにちは」と同じように「ありがとう」って言われることってまずないじゃないですか、仕事上では。もしかしたら、それが業界の人たちの、甘えに通じているのかもしれないっていま思いました。

原田
恐らくそうだと思います。お客様はお金払っている以上、顧客だから、それに対する権利があるわけじゃないですか。だけど権利を主張する方々はほとんどいないんですね。たぶん、これからはそうはいかんでしょ。これからの方々は権利を主張されることが当たり前になると思いますよ。

前田なるほど。

原田
そのギャップも含めて変わってくるはずです。多分激変するんじゃないかなと思っていますし、その方が面白いよねって思っちゃうんですけどね。

宮嶋
その業界が変わるってことと関係あると思うんですが、介護離職の話も色々と話題になっています。介護離職の考え方、サービスが産業化、本格的に産業化されていくことによって、いろんな事が変わっていくんじゃないかと思うんです。いや、そもそも変わっていくことがあるかどうかって問題提起ですかねぇ。

原田
はい。

宮嶋
もし変わるのであれば、どう変わるのかって予測を教えていただいたますか。社会的な認知といいますか、今話題になっている介護離職の話も、送り出す会社側からの話ばかりじゃないですか。よりサービス提供側からの何かしらのアプローチなり、サービスなりをもっと考えて頂いて、情報を発信していただければ、介護離職って減るんじゃないかって思うんですが。

原田
おっしゃる通り、まさにそうなんです。先日、熊本の介護事業者の方々と話していたんですが、その方々が「帰ってきちゃだめだ」というんですよ。

宮嶋
ほうほう。

原田
特に男性がですね、実家に親がいるからという理由で“会社辞めて帰省する”っていったら「絶対にそんなことしちゃあいけない」」って言うんですよね。

<次回:介護事業者が介護離職という現象に対して向き合う重要性へ続く>