[対談#1]介護業界はニーズにあったサービスというのが、あるようでなかった世界(原田匡)

今回の「熱いぜ!ミドルマネジメント」には株式会社ケアビジネスパートナーズ代表取締役の原田匡さんにお越しいただきました。原田さんは2008年3月から介護業界に本格的に関わって以降、約7年間に亘る事業所の経営経験と同時に、2010年1月から経営コンサルタントとして介護事業者向けのセミナーや研修講師を務めています。最近目にすることが多くなった介護と介護離職についてミドルマネジメントはどう関われいいのか。事業者と利用者の理想的な関係についてお聞きいたしました。

熱いぜ!ミドルマネジメントとはみどり会の冊子企画として生まれた”ミドルマネジメントへエールを送る”をテーマとした対談企画。対談の様子を全文テキスト起こしで掲載しています。(取材、撮影:平世将夫)
 原田匡さんのプロフィール
株式会社ケアビジネスパートナーズ 代表取締役
京都大学法学部卒業。日本社会事業大学専門職大学院 福祉マネジメント研究科ビジネスマネジメントコース卒業。経営コンサルタントとしての経験、並びに自らの起業経験を融合し、現在は介護市場に特化した経営支援活動を全国で展開している。介護業界に対する深い知見と全国に幅広い事業者ネットワークを持つ。

介護に直面するミドルマネジメント世代に対して、どういうことが予見されるか、を教えてください
宮嶋
いま新聞や雑誌等で介護離職が取り上げられることが多くなってきています。
原田
はい。

宮嶋
私のまわりでも親御さんの介護が必要になったとかですね、例えば私でいうと、義理の親は介護になる直前に残念ながら亡くなってしまったのですが、あのまま介護が続いていたらと想像すると、同居はしていないけれども生活に与える影響は大きかったんだろうなと想像がつくんですね。
原田
えぇ。
宮嶋
介護ということにアチコチで直面している。でも、残念ながら実態が見えにくいが故に、いつかくる未来だけれど、見ない、考えないことにしている。そういう現実があるのかな、というところがあるんですね。これは私の自戒を込めてなんですが。
原田
ありますねぇ。
宮嶋
国の制度は整いました、と言われます。でも利用者側はよく分からない部分もあるかと思います。前置きが長くなっちゃったんですが、介護報酬改定の話ですとか、お泊まりデイに対しての行政の見方が厳しくなってきたですとか。介護報酬改定とか厚生労働省の指導方針の変更が大きく報道されている印象なんですが、これらによってですね、これから介護に直面するであろう我々ミドルマネジメント世代に対して、一体何ができて、どういうことが今後予見されるかっていうことを本日は教えて頂ければと思います。
原田
なるほどなるほど。まず一番大きな話としてでてくるのが、今に比べると自己負担の割合が相当ふくれてきますよって話ですね。
宮嶋
はい。あれ具体的にどうなるんですか?

原田
今までは原則1割負担というかたちできていたんです。これが社会保障の財源のなかで、国は今かなり圧縮の方向に動いているんです。その圧縮のために、まずご利用されている直接的な方々にも負担をして頂こうということで、今年(※2015年)の8月から1部の方々が、いま5人に1人と言われていますけれども、1割負担のものが2割負担にということがでてきますよね。

宮嶋
はい。

原田
これが結構大きな転換ではないかなと思っています。今まで介護保険って制度を活用する上においても比較的低額で利用できたものが、まだ低額だと個人的には思っていますが、それでも利用料が倍になる、ということがいま騒がれているところですよね。

宮嶋
はい

原田
一番ダイレクトに響いてくる部分は、負担の増加です。かといって、一方でご利用者の方々の年金の問題、こちらは宮嶋先生ご専門だと思いますが、年金について非常に心もとない状況が続いていくであろうと推測できるなかにおいて、受け取れる年金は非常に不安定なのに、負担だけがどんどん先行して高まっていくという不安が現実になっていく、かつ業界のなかも何やら不透明だという状況で、本当に自分が介護に直面したときには、非常に混乱しますよね。これはみなさんおっしゃることです。

宮嶋
確かにそうですね。

原田
直接的にはそれが一番大きいんじゃないかなと思いますね。ただ我々のようにずーっと国の動きを追いかけている立場からみれば、正直こうなることは“分かっていた”と言えるんです。もう何年も前からロードマップが描かれていて、それに対してステップバイステップで動いているということでしかない、と思っています。

宮嶋
なるほど。ずっと業界にいる方からすればそうですよね。

原田
これからが介護の本当の意味での「産業化」がはじまる時期じゃないかな、と思っているところがあります。

宮嶋
といいますと?

介護業界はニーズにあったサービスというのが、あるようでなかった世界

原田
保健外診療というのもあるかもしれませんが、医療というのはその大部分は、報酬におんぶに抱っこで食ってきた業界だと思うんですよ。介護と医療では報酬単価が違う部分はありますけれど。

宮嶋
はい。

原田
報酬を何とか確保するために政治的圧力をかけたりとかということもいっぱいあったと思うんです。しかし介護の世界というのは、恐らくこれからもっと自由度が増してくるといいますかね、今まで本当にニーズにあったサービスというのが、あるようでなかった世界だと思うんですね。

宮嶋
なるほど。

原田
ひとつの枠組みのなかで精一杯努力している。だけど枠組みの外にでようとしない方々がとても多いんです。“介護報酬でメシを食う”という発想からでられない方々が多くてですね。そんな中で家族やご利用者の方々の不足感ってものすごくあったりするんですよね。

宮嶋
保険以外のことを提供しちゃあいけないっていう思い込みみたいなものがあるってことですか。

原田
今までは介護保険でメシが食えてきたし、あんまりそれ以外のことまでやろうと思わなかった。それはサボっているのではなくて、概念がそうなっているんです。そういう部分はこれから変わって来る可能性が相当大きいんじゃないかと思っています。

宮嶋
なるほど。

原田
先日、東京でセミナーやっていたんですけれども、やっぱり保険以外のサービスでどう付加価値がつけられるかとか、もっともっとご利用者、ご家族のニーズが見えている中で、どのようなことをしていこうか、とか。そういったことを考えはじめてきている。という動きがでてきています。そういう点については、私は好ましいことだなとも思っています。

宮嶋
なるほど。逆に言えば、利用者側も介護保険にとらわれたサービスメニューしかイメージできていないんでしょうか?

『ソーシャルワークという観点を持ちながら、やっていかなきゃいけない』と言われますが、かなりギャップが大きい

原田
といいますか、結局ご利用者の方々が介護が必要になったその時にどこにいくか。まず自治体にいって、地域ごとのブロックに分かれる包括支援センターというところに行くのがセオリーですよね。そこにいる方々が「介護の専門」の方々なんです。

宮嶋
そうですね。

原田
その方々は「介護保険の専門家」です。QOL、クォリティオブライフ、生活っていう平面だけで捉えるのではなく、人生であったり、命というものも含まれていると思うんです。人生や命を担保する、人生の質や命の質を担保する、という概念に立ったときに、ケアマネジメントの範囲だけでは不足するであろうことは明白だと思うんですよね。

宮嶋
それはそうですね。

原田
だけども、結局「介護の専門」の方々は、医療の流れから含めて“介護の保険”の方々なのです。で、ご利用を希望されるご家族の方々は、そもそも情報を持っていません。だから相談に来るんですが、言ってしまうとノーアイディアですよね、介護に対して。

宮嶋
そう、知らないから相談に行くんですものね。

原田
そうそう。で、そうすると、その専門家の意見を聞くしかないんですよね。その中で話が進んでいってしまっているということがあるのかな、と思います。

宮嶋
あぁ、なるほど。

原田
そこは非常に難しいところもあって。介護の方々、介護保険で働く方々は「ケアマネジメント」という言葉からもあるなかで、専門性を追求しなさいと言われているんです。医療に比べて介護の報酬が低いのは、専門性がないからだ、みたいなよく分からないことを言われていまして。

宮嶋
へぇー。

原田
「もっともっと専門的な分野を追求していきましょう」と言われているところに位置されている方々ですから、もっと幅広い視野でもって、一人ひとりのQOLをみながら、コレ日本ではあまり根付いていないですけれども、『ソーシャルワークという観点を持ちながら、やっていかなきゃいけない』とは、言われていますけれども、結構ギャップが大きいんですよね。

前田厳しいよねぇ?!

原田
難しいと思います。求められているものが2つあって、相反するところもあるのですから。

宮嶋
ですねぇ。

前田話題になることも多いですが、介護業界ではたらく方々の給与報酬も低いでしょ。

原田
そうです。そうです。そうです。おっしゃる通り。業務が多いわりには、給与が低いんです。

宮嶋
うん

原田
かといって、自分たちで目指す仕事自体ができているかはわからないんです。

宮嶋
うーん、なかなか厳しい状態ですね。

原田
ひとつ一つが不整合。不整合同士がつながっている状態です(笑)。組織のなかでも同じですね。誰しもが、「ご利用者の気持ちに寄り添って、本当にいいQOLを担保できるようなケアを提供したい」とか、「ケアデザインをしたい」とか思っているのは間違いないのですけれど。

宮嶋
うん

原田
なかなか、そういったことを実現するために必要な精神的、身体的にも余裕がないといいますか。そもそもそういう教育をされていないものですから環境が整っていないのですよね。

宮嶋
なるほど。

原田
そういう状態の介護事業者結構いるんじゃないかなと思いますね。

今まで介護保険の世界のなかだけでモノゴトを考えてきた

宮嶋
話がちょっと飛躍するかもしれないんですけど、現行の介護保険制度そのものの設計に無理があるっていうことなんでしょうか。

原田
設計に無理があるという考え方も一面あると思いますが、我々が勝手に期待し過ぎた気がするんですよね。

宮嶋
利用者側が?

原田
事業者側ですね。

宮嶋
ほう。

原田
利用者側は、介護に直面してはじめて介護保険のことを知るわけですよね。ということはそこまでは何の知識もないわけですよね、おそらく。

宮嶋
うん、ですね。

原田
相談するときに、はじめて介護の専門家と言われる方々から、色々な話を聞いて、いろんな事を知って知識の土台ができあがってくると思うのです。その原点は「介護の専門」の彼らですよね。是非は別として、今まで介護保険の世界のなかだけでモノゴトを考えてきたのです。

宮嶋
うん

原田
例えばどうなるか、っていうとですね。先ほど宮嶋先生がおっしゃっていたように、「お泊まりデイ」に対して国の方針が厳しいという話になった時があります。先日もそういったメールがきていたんです、某県の事業者の方から。

宮嶋
どういうトーンなんでしょう。

原田
まぁ、要するに「国は結局、お泊まりデイの重要性をわかっていない」とくるわけです。

宮嶋
なるほど、うんうん。

原田
こんなに大事な、地域を支えているサービスであるにも関わらず、この報酬を切っていくなんて、それはおかしい”っていうのがこの業界のみなさんの発想なんですね。

宮嶋
なるほどー。「べき論」になっちゃうんですね。

原田
それはすごく理解できる。理解できることなんですけれど、一方で、そこまで介護保険に寄っかかって、介護保険で全部やってくれっていう方が、全体感からいうと無理があるわけですよね。

前田なるほど

原田
すごく乱暴な言い方をすると、とにかく国が介護保険制度を放置しておくと、最後は破綻すると思うんです。何のデータを見ても、どう考えてもご利用者が爆発的に増えてくるのは明らかですよね。でも、それに対して支える財源がないじゃないですか。そういうアンバランスな状況では、保険制度は保てない。
宮嶋
確かに様々なところから指摘されている問題ですね。

原田
それを絶対的に回避するために、最低限のインフラづくりを介護保険で担保しようじゃないか、というのがベースにあると私は思っているんですね。最低限のインフラの中で、比較的重要度が高いサービス、緊急性が高いサービスであるとか、介護保険の圧縮にも貢献してくれて、なおかつご利用者のQOLにも貢献するような費用対効果の高いサービス。具体的には機能訓練とかそういうサービスですよね、「ここに行けば元気になるよ」というようなサービスを展開する会社さんに対しては、もっともっと伸ばしていってほしい。

宮嶋
なるほど。

原田
そうやっていったとしても、ご利用者一人ひとりの細かなこと全て介護保険で網羅して、カバーして、提供しようっていうようなことは、やろうと思ってもできないと思うんですよ。

宮嶋
はい。

原田
利用者のニーズは個別個別ですのから。だけどその個別対応すらも、全て“介護保険で解決してくれ”というような視点、介護事業者がわりとそういうような視点でみているわけですよね。

宮嶋
あぁ、なるほど。その意識が先ほどの愚痴めいたことに繋がるわけですね。

原田
えぇ。わたしはよく話すことがあるのですが、「みなさんの会社って株主が国ですよね」と。「それっていいんですか?」っていう話になりますよね。その概念から抜け出ている会社さんは面白いこといっぱいはじめてますよね。

前田例えばどんな取組を行っているんですか。

<次回:介護離職の話は、送り出す会社側からの話ばかりですよねへ続く>