[対談#5]自分の仕事観をもつということ―長本英杜♯5

今回の「熱いぜ!ミドルマネジメント」には株式会社NGK(日本元気化計画代表取締役社長の長本英杜さんさんにお越しいただきました。大手企業、インキュベーション支援、そして創業というキャリアを積み重ねてきた長本さん。最近話題の北欧企業と関わることも多く、2014年12月にスウェーデン流グローバル成長戦略を出版されました。自分の仕事観をもつということがミドルマネジメントには大切と長本さんは言います。”北欧企業のスタイル”から”寛容さ”ということに拡った対談で一貫して共通していたのは「自律」の重要さでした。熱いぜ!ミドルマネジメント対談第5回目をおたのしみください。

熱いぜ!ミドルマネジメントとはみどり会の冊子企画として生まれた”ミドルマネジメントへエールを送る”をテーマとして毎月開催される対談企画。対談の様子を全文テキスト起こしで掲載しています。(取材、撮影:平世将夫)
長本英杜さんのプロフィール
株式会社NGK 代表取締役社長、中小企業診断士。スウェーデン商工会議所会員。
1964年生まれ。慶応義塾大学卒業後、大阪ガス株式会社入社。1998年中小企業診断士としてプロセスマネジメント研究所を主宰。2000年大阪ガス子会社の京都リサーチパーク株式会社EBSセンター所長就任。
2006年、株式会社NGK設立、代表取締役就任。上智大学コミュニティカレッジ「チェンジマネジメントの理論と実践」講師。著書にスウェーデン流グローバル成長戦略

AかBかではなく、AとBで合わせるっていう発想が大事

長本 科学の世界に自然学とか芸術とかそういうものを合わせないとダメだということらしいんですよね。科学によって原子力、原発ができる、様々な武器もできる、そういう科学だけじゃなくて、対極にあると考えられている自然とか、アートとかね、そういうものを合わせもたないとダメだとずーっと啓蒙されていたんですよ。

前田 なるほどなぁー。

長本 多田さんが言っていたのは「人間は細胞レベルでいうと寛容さをもっている」ってことなんだよね。それに立ち返れば、どんなものだって寛容さをもてるはずじゃないかということで。要は合わせることができるということに繋がるんだよね。そういうことを多田教授はずっと言われている。

前田 うんうん。

長本 その視点をね、新規事業立ち上げるときのことに重ねることができて。つまり矛盾を統合することによって新規事業ってできるんですよ、理屈で言えば。当たり前の発想から新規事業ってできないわけでしょ。

宮嶋 はい。

長本 例えば価格が安いけれど、品質もいいものができたら素晴らしい商品になる。代表的なのは例えばユニクロとかね。それって既存の価値を変えるっていうことじゃないですか。そういうものが産まれる新規事業が立ち上がったり、新製品として世にでてくるんだけれど、生み出される前には今までの“当たり前”と言われている発想を捨てることが必要なんですよ。

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宮嶋 はい。

長本 AかBかではなく、AとBで合わせるっていう発想が大事。これは弁証法っていって、ヘーゲル(注:(1770-1831)の哲学の世界ですね。あの時代ですでにそういうことを言ってるんですよ。で、哲学の世界の話だけじゃなくて、細胞レベルでも菌という異質なものが入ってきたときに抵抗するんじゃなくて抱え込んでしまう、寛容さをもっていると

宮嶋 なるほど。

長本 だから人間は本来寛容さをもってるんだということと繋がるなぁってね。日常でいえば自分と違う意見がきたとしても、それを排除するのではなくて包み込みなさいということを彼は言っている。

宮嶋 なるほどなぁ!本質というか根っこのところでは共通することを言っているわけですね。すごいなぁ。

優しいことばかりで業績あがらないのも、厳しいばかりで疲弊してしまうのも、ダメなマネジメント。

長本 ということを考えるとね。ダイバーシティーって、自分とは違うものを認めたり、尊重するっていうことが本来ありますよね。

宮嶋 はい。

長本 けれども人は自分と違うものが現れると、どうしても排除してしまう。拒否してしまう脊髄反射ってあるじゃないですか。そうじゃなくて、本当は人は自分と違うものを包容できるはずなんです。できるはずなんですけど、難しいね、と(笑)

宮嶋 いまお話を伺っていて「寛容」って言葉が幾度も出てきました。僕がとても共感したのは「包容」ですね。包み込むって大事ですね。チーム運営の課題、ダイバーシティーをどう社内に定着させていくのかというテーマもありますが、そもそもの前提として自分の部下、同僚に対して、こう・・・包み込んであげるってことも必要なんでしょうね。違う意見とか、違う個性とかに対してね。

長本 そうですね。包み込むっていうのがまさにそうじゃないですか。あと、東京理科大学大学院の伊丹敬之教授が、「よき経営者の姿 (日経ビジネス人文庫)」という本を書かれています。その本の一番最初の行に「最近、いい顔をした経営者がいなくなった」って書いてあるんですよ。昔は松下幸之助にしても、ソニーの盛田さんにしても、なんともいえない顔をしていたと。

宮嶋 へぇー。

長本 どんな表情なのかっていうと、厳しいようで笑っている顔だというんですよね。本田宗一郎さんも同じだって。それは何を言っているのかというと、包容、僕は「寛容さ」のほうが表現としてはいいような感じがするんですけれども、厳しさと優しさを合わせ持つということですね。

前田 なるほどなぁ。

長本 合わせ持つということがポイントで、優しいだけじゃダメなんですね。やっぱり厳しさも大事だと。2つを合わせた「寛容さ」が必要で、それが人間の器だと言うんです。そういうことが顔に出て来ると思うんですよ。

宮嶋 うんうん。

長本 優しいことばっかり言って迎合していて業績あがらなかったら、それはダメなマネジメントです。厳しくやってばかりで組織が疲弊してしまうと、これもダメなマネジメントです

厳しくもあり優しくもある。そのマネジメントによって業績をあげつづけ、部下も成長する。そういうのが“いいマネジメント”だと思うんですよ。経営者はその最上級レベルですから、一番大事ですが、部門を率いるというレベルでも同じでね。

宮嶋 そうですね、同じですね。

長本 それぞれのトップが、厳しさと優しさを合わせ持たないとダメじゃないかなと思います。メンタルの話にもあるけれど「こういうことをやってはいけない」とかね、なんでも全て「やってはいけない」という方向の話になりがちじゃないですか。みんなの意見に流されていく。

前田 そうだね、みんなの意見をすくい上げていくとそうなるよね。

長本 うん。だからそれはね、自分なりの仕事観なり哲学を持っていないからだと思うんだよね。仕事観、哲学をしっかりと持った上で、厳しさと優しさを合わせ持つようなマネジメントをできたらいいですよね。という感じかなぁ。

宮嶋 最初の仕事観の話に繋がるわけですね。なるほど「寛容」なんですね。

長本 そこが始点じゃないかなぁ。

世の中って理不尽なことばっかりですよね

宮嶋 今日の午前中、京セラの産業医をされていた先生のお話を聞く機会があったんです。稲盛さん(注:稲盛和夫氏、京セラ創業者)の伝説として、灰皿を社員にぶん投げたっていうエピソード。でもエライのは、そのあとちゃんとフォローしていると。そこがすごい大事なんだって話で。

長本 投げつけたことの是非はさておき、そういう行動自体が、コンプライアンス、セクハラ、パワハラといった言葉がでてきたように、もうできなくなってしまっていますよね。

宮嶋 例えば胸ぐらを掴むくらいに本気なんだっていうのを見た上で、その上に優しさがあるっていうケースもありますよね。それが正しく伝わることが本来やらなければいけないことなのでしょうけれど、今はとにかく厳しさ=パワハラということになってしまう。

長本 うん。

宮嶋 勿論暴力はいけないし、脅迫めいた行動は許されることではないです。でも明らかな誤解というケースもあるかもしれないなぁと思うときもあるんですよね。

長本 容認するつもりはないですけれども、何でもかんでもパワハラになることで困っている人もいるでしょうね。

僕らの時代では部活動とかのシゴキ、例えば無闇に叩かれたりすることはなかったんですよ。でも「グランド走っとけ!」っていう指示がきて、ひたすら1時間、2時間走らされたってことはあるんです。

前田(笑)

長本 理不尽なことってさせられると腹が立つじゃないですか。腹が立つと抵抗するってこともあるけれど、本当の意味で色々考えるきっかけになることもあるんじゃないかな。悔しいという原体験があると自分なりに考えることもあるじゃない。

宮嶋 あぁそういう人は多いですよね。

長本 世の中って理不尽なことばっかりですよね。本当に理不尽なことばっかりだと思うんですよ。政治も、経済も。誰かが牛耳っているとか。世の中は理不尽に満ちているんだけど、残念ながら子どもの頃には説明されないよね。

理不尽な経験がない人たちが社会にでてしまって、あるタイミングでちょっとしたことで理不尽なことになると、つぶれてしまう話になる。これはぼくの何となくの感触なんですけどね。

宮嶋 そうですよね。その説明されていない事自体が理不尽ですね。

長本 数、量をこなして初めて分かることってあるでしょ。

宮嶋 ありますね。数稽古、量稽古をやってこそ質を高められる世界はあります。いわゆる反復練習もそうですね。

長本 その文脈だとね、職人的な世界にパワハラという定義はかなり難しいですよね。料理人の世界も同じかも。

宮嶋 僕の先輩がお寿司屋さんで修行していた時は…(苦笑)、色んなものが飛んできたって言ってました。

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長本(笑)そういう中でもね、伝えたい何かっていうのはあると思うんですよ。

宮嶋 空気で伝えるってことがあるじゃないですか。言葉で伝わるより雰囲気の方が伝わる、熱さというか、情熱ですよね。これ世代論になるのか、僕の愚痴になるのかもしれないけれど、若い世代ってインターネットによって知ったことと、肌の感覚でしか分からないところの違いを理解しないままに、知ったかぶりになってしまっているケースがすごく多いなって感じるんですよね。

長本 なるほど。

宮嶋 すると人と合うのも同質的、同じような人としか付き合わない。変わった人にあまり興味を持たない。リスクを避けるってこともあるかもしれませんが、同時に非常にもったいなさを感じることがあります。

一番言いたいのは「自分の仕事観をもつ」っていうこと

長本 表と裏の関係だから、機会を逃すことにもなるからね。

宮嶋 そういう世界で生きてきた人をマネジメントしていくというのは、なかなか厳しいものもあるんだろうなぁと感じる時もあるんですよね。つまり初めてのことに対しては拒絶から入ってくることが多くなるわけですから。

長本 そういうケースもあるでしょうねー。

宮嶋 先ほどの「寛容さ」「ダイバーシティー」っていうところに全てが詰まっていると思うのですが、そろそろ時間も経ちましたので、最後にいまのミドルマネジメントの方々に、元気を出すメッセージを頂けますでしょうか。

長本 最近は組織におけるミドルマネジメントになる年齢が若くなってきています。またミドルマネージャー暦がロングランの人が増えてきているらしいです。またマネジメントといいつつもプレイヤーの部分もあるじゃないですか。プレイングマネージャーですね。

前田 プレイングマネージャー。大企業以外は殆どがそうじゃないかな。

長本 うん。しかも組織はフラットなことが良しとされている。さらに人数も多い。その中で「何とかせい」って言われて大変としかいいようがないですよね。

宮嶋 はい。

長本 メンバーの人たちはその姿をみて、“マネージャーにはなりたくない”って思う人もいるわけですよね。そんな状況の人たちに向けて一番言いたいのは「自分の仕事観をもつ」っていうことかな。

宮嶋 最初にも言っていましたよね。

長本 そうそう。それしかないと思うんだよね。何のために働くのかっていうこと。メンバーを率いるのであれば、あなたはどんなパワーでメンバーを率いていくんですか、と。そのパワーは実績なのか、政治力なのか、お金なのかみたいな話もあるけれど、僕は皆さん方の仕事観じゃないかと思います。自分たちは何のために働くのか。その1点を考えるしかないんじゃないですかね。そしてそのことをメンバーに伝えていく。そういうことしかないんじゃないかと思います。

宮嶋 なるほど。まずは自分の価値観を考え続け、それを伝えていくことが根っこにあるということですね。本日は長時間ありがとうございました。

熱いぜ!ミドルマネジメント-長本英杜さんとの対談に対する大條充能氏のコメント

長本さんがメッセージされたスウェーデン流マネジメントスタイルは、リクルート創業者の江副流と共通する思想が流れているぜ。本文で紹介されている「フィーカ」は江副が一番こだわった組織の一体感づくりに通じているぜ。今でこそ社員の可能性を最大化するモチベーション経営が社会に認知されてきたが、江副がリクルートを創業したモノづくりの高度成長時代においては江副のスタイルは宗教経営などと皮肉を言われるほど、その意義は理解されていなかったぜ。ここで江副流とスウェーデン流の共通点を紹介するぜ。
江副は5月端午の節句にはメッセージ入り柏餅を全社員に配布したぜ。季節の行事を全社員一緒に祝うことを通じて家族的な風土を形成したぜ。北欧企業の「フィーカ」と「全社員お弁当」と全く同じ目的だぜ。江副は季節の行事に限らず、全社運動会や全社スキーツアーなど社内コミュニケーション投資は信念をもって行っていたぜ。そしてその投資を通じて江副が創りたかった組織は次のふたつに集約されるぜ。
職場の仲間と共通の目標にむかって協力する「協働」仕事は自分が決断し責任をもつ「自律」「協働」と「自律」の実現を江副は組織マネジメントの骨格においていたぜ。江副がリクルートを創業し55年経過するが、スウェーデン流として同様の経営思想が確立され、グローバル企業が創造されていることが嬉しく感じたぜ。「フィーカ」「全社一斉お弁当」とても共感したぜ、熱いぜ!