[対談#3]ダイバーシティーマネジメントの前提には自律がある―長本英杜♯3

今回の「熱いぜ!ミドルマネジメント」には株式会社NGK(日本元気化計画)代表取締役社長の長本英杜さんにお越しいただきました。北欧企業と関わることも多く、2014年12月にスウェーデン流グローバル成長戦略を出版。北欧企業の事例を通して、その精神的バックボーンにまで踏み込んだトークを宮嶋邦彦と繰り広げます。

熱いぜ!ミドルマネジメントとはみどり会の冊子企画として生まれた”ミドルマネジメントへエールを送る”をテーマとして毎月開催される対談企画。対談の様子を全文テキスト起こしで掲載しています。(取材、撮影:平世将夫)
長本英杜さんのプロフィール
株式会社NGK 代表取締役社長、中小企業診断士。スウェーデン商工会議所会員。
1964年生まれ。慶応義塾大学卒業後、大阪ガス株式会社入社。1998年中小企業診断士としてプロセスマネジメント研究所を主宰。2000年大阪ガス子会社の京都リサーチパーク株式会社EBSセンター所長就任。
2006年、株式会社NGK設立、代表取締役就任。上智大学コミュニティカレッジ「チェンジマネジメントの理論と実践」講師。著書にスウェーデン流グローバル成長戦略

ミドルマネジメントには“仕事観がない”という指摘はよく言われるんです。

長本 習慣になっているんだと思うんですよね。習慣化って大事ですものね。あぁいうことって突然の思いつきでやることでもないから、その辺の習慣はなるほどなぁと思いますよね。

宮嶋 僕は出身が新潟県なんですね。新潟も北欧に近くて冬は天気が悪い日が多く曇り空ばかりで、鬱が多いって言われているんですよ。

長本 そうそうそう。同じ感覚じですよ。

宮嶋 どよーんとしてた気候でね。因果関係があるかどうか難しいところでしょうけれど、自殺者がすごく多いんですよ。人口10万人当たりの自殺死亡率では確か一番多かったと思います。

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長本 そのニュース聞いたことあります。

宮嶋 いまは結構改善されたとかも聞きますが、スウェーデンもかつては自殺率が高かった記憶があります。自殺率が統計的に日照時間と相関が見られるのかどうかってのはまだまだ議論の余地があると思うんですが、さっき仰っしゃられた帰りの新幹線の中でどんちゃん騒ぎをする、宴会する、酒が好きってまさに新潟の人も同じです。聞くところによると秋田の人もそうだとか。でも反面、普段はどちらかといえば暗いんですよね。

長本 反応というか本音が分かりにくいかもしれないですね。

宮嶋 そういう気質なのかもしれないですね。それでいうと僕は例外かもしれない、新潟県民として(笑)

前田(笑)

宮嶋 さきほどの宗教観の話も面白くて、ケルト民族は自然神、我々は八百万の神。そういうところに国民性がでるのかもしれないなぁ。

長本 ミドルマネジメントの話に戻ると、ミドルマネジメントのチームメンバーを相互理解するっていうところで、“仕事観がない”という指摘はよく言われるんですよね。

宮嶋 仕事観」ですか。

長本 はい。つまり仕事に対する哲学、何のために働くか、みたいな話ですよね。僕らの若い頃は、「若い頃は…」って言っちゃいけないんだけど(苦笑)、僕らの時は高卒の叩き上げの人たちが現場にいた時代なんですよね。そういう人たちから肌で学ぶ機会が本当に多くて。

宮嶋 はい。

長本 仕事に対する姿勢とか、厳しさとかいった面ですね。そういうことを本当に学びましたね。教育といっても教えるのではなくて、やらせてみて失敗させて。失敗、経験から勉強をさせるみたいなね。

宮嶋 今はなかなかそういう機会も余裕もないのかもしれないですねぇ。

長本 そう。だから疑似体験、トレーニングでね。その経験ってヒューマンロジック研究所の古野さんがいう修羅体験に近いんじゃないかと思うんだよね。振り返ってみても職場の中での修羅場体験が、若い頃にはやっぱりあったなぁという感覚なんですよ。

前田分かるなぁ。

「仕事観」を身につけるために、リベラルアーツ教育をやらざるを得ないんじゃないか

長本 でしょ、で今のミドル層、想定している年代で言うと40歳代前半くらいになるかと思うんですが、バブル経済が終わったあとの就職率が低い時期に入社してきていますよね。

宮嶋 はい。

長本 世代の違いを端的に言うと、40代前半は言ってみればいい思いをしていない人たちが多いじゃないですか。上の世代をみればバブル経済を享受して、割と好き勝手ができましたみたいな人たちが多くて。

宮嶋 えぇ。

長本 40代後半から上は、どちらかといえば自己啓発重視で”自分で学べ”みたいな感じでね、組織でも能力給などの報酬制度が始まった段階ですよね。キーワード的に言えば”プロ社員になるんだ”ということが始まった年代だったと思うんですよ。

前田 ”プロフェッショナルになろう”というフレーズ流行っていたよね。

長本 その流れに合わせて、経済的な理由で大学進学はできなかったけれども、高卒で入社していた実に優秀な人たちが退職されて現場からいなくなっちゃったりとかね。そういう時代になった時、さっき話したような育てられ方をしてきた経験がないのかな、っていうのがありますね。

宮嶋 古野さんも”ミドルマネジメントの世代には修羅場経験が不足しているかもしれない“という指摘をされていましたね。

長本 とはいいつつ、仕事に対する「観」「仕事観」があるなぁという人もポチポチといますね。だからそうした「仕事観」を身につけるために、例えば”リベラルアーツ教育をやらざるを得ないんじゃないか“と考えている会社がある。

前田 へぇー。

長本 うん。とある大学と提携してそういう宗教心とか人間学とかを学んでいこうと。学ばせることは本来大学生の時にやらなければいけないんだけどね。いまは大学の時に禅問答のような「学ぶことを学ぶ」のような経験をしていないわけですよ。実学志向じゃないですか、学生も学校も。

宮嶋 とにかく「すぐに役立つこと」を重視するようになっていますものね。

長本 リベラルーツのような教育を受けた経験をしてない、家でも躾けられたこともない、体育会系でしごかれたこともない。説明されて理解すること、正しく答えを記憶することが求められる、全てにおいて説明されてきて育てられるという環境で過ごしてきて人たちなので、自分たちで考えない。

考えることとはなにかということが習慣化されていないんですよね。”そこが問題なんじゃないか”ということで、リベラルアーツ教育をやろうっていう発想ですよね。

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オートノミー、「意思決定に対する自由さ」です。

宮嶋 僕が読んだ本で、一度国会議員になってエール大学をでて、それから塾をはじめた人がいるんです。その人が言うエール大学の凄さっていうのは、リベラルアーツに対する立ち位置と充実さ、所謂教養ですよね。

教養って全ての出発点であって、教養をいかに学ばせるかというのが大事だから、そのことに対する意識が高いというか、授業が濃いって話をされていましたね。

長本 スウェーデン語で「オートノミー」という言葉があって、これは「自律」ということなんですよ。自分を律する方の自律。日本で言う自分が両足で立っているみたいなことではなくて、”意思決定に対する自由さ”ですね。

宮嶋 はい。

長本 要は自分はこれが正しいということに対して、きちんと意見が言えて、それに対して自分はこうだという意思決定ができる。その逆「オートノミー」の逆は何かというと、指示をされてそれに従う、従属するようなことなんですね。

前田 なるほど。

長本 オートノミーとは「意思決定に対する自由さ」なんですね。どんな意思決定でも構わないから、自分で意見をし、自分で決めて、行動することが大切であるということなんです。

宮嶋 ああーなるほど。

長本 そのことをちょっと聞いてみたいなと思って、豊田自動織機のBTとの交渉役で、今もスウェーデン企業の顧問等やられている方に、「スウェーデン企業の特徴って何ですか」って聞いたんですよ。すると、「オートノミー」だよって返ってきたんです。

宮嶋 はい。

知識や意見の上で自分で意思決定して責任をとる、が一番じゃないですか。

長本 例えば日本法人ができても日本法人としての「オートノミー」を要求するんです。そこには責任もあるんですよね。意思決定の自由さだから。意思決定の自由さで、自律した人を求めるってことは結果的にそれがダイバーシティーなんですよ。

宮嶋 互いが自律しているということは、裏を返せば互いのあり方を尊重しているわけですね。

長本 うん。で、ダイバーシティーマネジメントができていないとそういう状態にはならないじゃないですか。暗黙のうちに政治的な圧力がかかってしまうとかではなくて。それぞれが意思決定に対して自由である、ということが前提にあるんですよね。

宮嶋 なるほどなぁ。そこは企業文化にも繋がりますよね。

長本 リベラルアーツ、イコール教養って日本語に訳されて入ってきているんですけれども、元々あれば宗教のキリスト教が出てきて広まっていく時に、それに対して人間尊重、人間をもう一回見直そうみたいな流れの中ででてきた話らしいんです。

宮嶋 へえー。

長本 教養を身につけることによって自由である、自由にいられるということらしいんですよね。まあ、教養を身につけることによって自由でいられるというような思想的なことがリベラルアーツらしいんです。

遠回りな話になりましたが、今のミドルマネージャーに何が足りないか、総じて日本人に何が足りないかっていったら結局そこになるんじゃないかと思いますね。

宮嶋 自分で意思決定することの経験値の総量ですか。

長本 何かに頼らないと決定できない。何かの基準に準拠しないと意思決定ができない。何かに属さないと意思決定できないってケース多いですよね。

そうではなくて、様々な知識や意見があった上で、しっかり自分で考えて、意思決定して責任をとるみたいなことが一番なんじゃないかと思いますね。一番足りないところが、ぼくはそこだと思うんですよ。

宮嶋 そうですねぇ。

長本 マネジメントってことでいうとダイバーシティーマネジメントが大事なんだけど、でもダイバーシティーマネジメントをする前提として、各自が自律していないといけないんです。その自律は意思決定に対する自律であることというのが重要なんです。

宮嶋 おっしゃる通りで、私がちょうど43歳ですからいわばミドルマネジメント世代なんです。バブル経済が崩壊して、大学1年の時の4年の先輩は、名前のある会社に入っていたりですとか、10月1日に山奥のいいホテルに連れていかれたりですとか(笑)先輩いいなぁ(笑)みたいな世代だったんですよ。

長本 あぁ、そうですよね(笑)

宮嶋 僕は就職先として幸いに地方銀行に入れたんです。だけど入行してみると疲弊しているっていうんですかねぇ。バブル経済崩壊後ですから金融機関は一番締めつけに入っている時期なものですから、行内の雰囲気がすごい疲弊しているところで。

長本 へぇぇぇ。

宮嶋 そんな疲弊した雰囲気が充満しているところに、就職が大変でヒィヒィしていた僕らの世代がさらに入っていってね(笑)こう…どんよりしているんです。灰色の世界に入ってってしまったみたいに。

新規事業と新規事業のマネジメント につづく)