[対談#2]北欧企業のマネジメントスタイルにみる特徴―長本英杜#2

今回の「熱いぜ!ミドルマネジメント」には株式会社NGK(日本元気化計画代表取締役社長の長本英杜さんさんにお越しいただきました。北欧企業と関わることも多く、2014年12月にスウェーデン流グローバル成長戦略を出版されました。北欧企業のマネジメントの特徴について、お伺いいたします。

熱いぜ!ミドルマネジメントとはみどり会の冊子企画として生まれた”ミドルマネジメントへエールを送る”をテーマとして毎月開催される対談企画。対談の様子を全文テキスト起こしで掲載しています。(取材、撮影:平世将夫)
長本英杜さんのプロフィール
株式会社NGK 代表取締役社長、中小企業診断士。スウェーデン商工会議所会員。
1964年生まれ。慶応義塾大学卒業後、大阪ガス株式会社入社。1998年中小企業診断士としてプロセスマネジメント研究所を主宰。2000年大阪ガス子会社の京都リサーチパーク株式会社EBSセンター所長就任。
2006年、株式会社NGK設立、代表取締役就任。上智大学コミュニティカレッジ「チェンジマネジメントの理論と実践」講師。著書にスウェーデン流グローバル成長戦略

慌てずやってるなぁというところが、すごくいい事例になるんじゃないかと思いますね

(前回: 北欧企業のグローバル展開の背景の続き)
宮嶋
時間を買うという表現ですね。

長本
はい。それを全世界で展開していくんです。ボルボトラックも、ボルボの乗用車部門はフォードに売却する。安心・安全という彼らの強みを活かすにはトラックに集中した方がいいんじゃないか、その領域では世界一になれるということですよね。

宮嶋
なるほど。それ以外はコアビジネスから外していくんですね。

長本
そう。トラック部門に経営資源を集中させて、日本では日産ディーゼルを買収。アメリカで買収して中国でも買収する。そうやって各地区で買収を行いながらブランドは残しておくという進め方ですね。

宮嶋
まさに選択と集中ですね。

長本
日産ディーゼルもUDというブランドになっていますけど、これは日産ディーゼルの時からUDで。そのUDのまま残しているんですね。そういうのを残しながら、人事制度でうまーくグローバルにボルボトラック流にしていくんですよね。あと上手いなぁというのは何事も一気にやらずに、部分的にステップを踏んでやっていくとかはとてもしたたかで、慌てずやってるなぁというところが、すごくいい事例になるんじゃないかと思いますね。

前田なるほどなぁ。

スウェーデンは、そもそもが中長期売上志向・成長志向じゃないかなと思うところがあります

長本
逆に日本企業の事例で言うとね。豊田自動織機がBTっていうスウェーデンのフォークリフトの会社を買収したんですよ。これはトヨタグループの中では初の買収だったと思います。これまでトヨタって企業買収したことないんですけれども、色んな経緯があってのことらしいんですね。元々はOEM生産をしてくれってことで協議をしていたら、先方が「ウチを買ってくれないか」って話になって。

宮嶋
話の流れからでたことなんですね。

長本
はい。BTはヨーロッパシェアNo.1のフォークリフトの会社なんです。市場もバッティングしないし、今でもヨーロッパでBTのブランドで売っているんですね。その時にやはりトヨタで最初に出向いて交渉した人は、極力トヨタ流を押しつけないという方針だったそうです。BTのいいところを伸ばしていきつつ、トヨタ生産方式だけをうまく入れていきながら、だんだんトヨタ流にしていくということをやっていましたね。

宮嶋
へぇー、なるほどなぁ。

長本
この話を聞いて、スウェーデン企業がやっていることって、まさに同じことじゃないかなって思っていまして。もう1つの裏のメッセージとしては、アングロサクソン系じゃなくて、北ヨーロッパからマネジメントスタイルを学ぶべきじゃないかと思うところもあるんです。

宮嶋
はい。

長本
MBA流の切った貼ったの利益志向の経営、利益がないところは切り捨てるということは分かりやすいのですが短期利益志向になり得る可能性もあります。これに対してスウェーデンは、そもそもが中長期売上志向・成長志向じゃないかなと思うところがあります。

宮嶋
中長期志向、思考。考えるときの時間軸をどこまでのスパンで捉えるかという違いですね。

長本
そうですね。それとマネジメントスタイルは基本的にはダイバーシティーなんです。スウェーデン人って気質的には個人個人が自立しているんですよね。社員の人たちを見ていると、出世を目標にしているとか社長になりたいとかいうヒエラルキーに対する欲求が比較的少ない印象です。言ってみれば本当に組織がフラットなんですよ。

宮嶋
へぇー。

長本
1回、世界第3位のスウェーデンのゼネコン企業がトヨタをベンチマークしたいということで、日本にきたことがあるんです。総勢10人で、社長と技術者、色々な階層の方が来日されたんですけれど、本当にフラットでね(笑)。名古屋まで行くとき、全員が新幹線の普通車に乗って、帰りはもう大宴会になっている(笑)。スウェーデンの田舎のおっちゃんが飲んでるみたいな。

宮嶋
面白いですね。すごい日本的というか。東海道新幹線でよく見かける光景ですね。

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長本
そういうのって日本的だなぁと思うんですよ。

宮嶋
そうですね。

長本
元々日本にもそういうものがあったはずなんですよ。それが短期志向に比重が偏ってしまうことで、妙におかしくなったなところがあるんじゃないかと思っています。そういうところを改善していくための視座としてチームワークとか、ボトムアップ。ミドルアップですね、今日のテーマでいうとミドルアップ的なことが重要なんじゃないかなと思うんですけどね。

「ここの空間にいると楽しい」という感情的なところが、もう一度フォーカスされるべき

宮嶋
今日午前中、たまたまウチの顧問先で、昭和30年代後半に創業した建設資材の会社さん。仮設材などのリースを行っている企業がありまして。

長本
はい。

宮嶋
2代目社長が55歳なんですが売上が15年で2.5倍、社員数が3倍になっているんですね。社長さんのスタイルって非常に泥臭いんですよ。営業の仕方も、ゼネコンの夜の現場に飛び込んで、そこで名刺交換して、とにかく知ってもらうところからスタートしている。

長本
へぇー。

宮嶋
寒ければ、豚汁つくって「召し上がってください」と現場にもっていくようなところからスタートした方なんです。今日もちょうど北里大学の先生が取り組んでいる職場環境の研究調査対象先としてお願いできませんか、ということで行ってきたんです。

長本
職場環境の研究調査ですか、へぇー。

宮嶋
かなりウェットなマネジメントスタイル、人間くさいというか下町のおっちゃんなイメージなんです。でも、案外そうした会社の方が意外にマネジメントできている面があるんですよね。社員さんもちゃんと来客者に挨拶ができていて、表情も豊かといいますかね。

前田挨拶をみんながきちんと出来るか、というのは案外社風を感じるところですよね。

宮嶋
ですね。また面白いのが、そこの会社がやっているのは、下請の皆さんに向けて年に1回感謝祭を開催するんです。

長本
へぇー。

宮嶋
皆さんを自社の倉庫に招待するんですよ。そこで自社商品を見せながら、お寿司握ったりとか、豚汁つくったりとか飲み放題食べ放題の会を開催します。それは全部社員さん全員でやってるんですよね。

長本
ほうほうほう。

宮嶋
非常に田舎臭いという表現にもなりますし、いわゆる都会的なスマートなパーティじゃあない。社長自らお寿司握っちゃったりとかね。これは個人的な好悪の話になりますが、僕はアングロサクソン的な考え方ってあまり好きじゃないんです。日本のマネジメントって人間の個性というか、性(さが)に基づいている、“人間とは何ぞや”というところから結びついて、どうしたらと人って動くんだろうねってアプローチから入っている気がするんですよね。

長本
はい。

宮嶋
お金じゃないところ、もちろんお金は大事なんですがそれよりも、「ここの空間にいると楽しい」という感情的なところが、もう一度フォーカスされるべきなんじゃないかなぁと思うんですよね。

長本
なるほど。揺り戻しですね。

スウェーデンには「フィーカ」って習慣、言葉があってね。

宮嶋
先ほど長本さんが大企業の新規事業開発の支援や、M&Aの後の企業文化の擦り合わせとかをやられているということを聞いて、「なるほどな」と腑に落ちるところがありました。それって意外と大企業ほど構成人数が多いがゆえに、実は思われているほどドラスティックではなくて。実はとても泥臭くて昭和的で。それが故にイノベーションできていることもあるんじゃないかと思ったんです。

長本
どちらのアプローチがいいのかという視点ではなくて、どうして企業文化の摺り合わせが必要なのかと考えるなら、そういう表現かもしれませんねぇ。

宮嶋
ベンチャー企業をみていると、組織にひずみがあるときってありますよね。成長していく過程のなかで泥臭いところとロジカルなところが上手く融合しきれなくて。結果的に組織が崩壊していくということが何社かあったような気がするんですよ。

長本
スウェーデンには「フィーカ」って習慣、言葉があってね。Coffeeの反対なんですよ。フィーカ。3時はコーヒーの時間なんです。だけどコーヒーだけを飲むのではなくて、キッチンや食堂みたいなところがあって、そこでコーヒーとお菓子食べながら雑談するという習慣。だいたいの企業でそういう習慣があるんです。

宮嶋
へぇー。

長本
先日出版した本(注:スウェーデン流グローバル成長戦略)で取材したIFSジャパンというIT企業があります。

そこは週に1回必ず全員でお弁当を食べるそうです。これは義務になっているんです。必ず週に1回は全員一同に介して弁当を食べるというね。そういうところは本当にまじめなスウェーデン人らしくてね。

前田その「らしさ」ってどういうニュアンス?

長本
うん。ぼくは努力してそういうことを継続する、まぁそれはフラットな組織だとか国民性とか色々と背景が積み重なってのことなんだろうと思うけれど、努力してそういうことをやり続ける真面目さがね。「らしい」と思う。

前田なるほど。

長本
エレクトロラックスも日本法人社長は元パナソニックの人で。その方にお会いした時に「スウェーデンの会社、エレクトロラックスどう?」って聞いたら、「とにかくまじめな会社やなぁ」という答えが返ってくるのね。

宮嶋
はい。

長本
どれだけ真面目かというと、価値観を浸透させなきゃいけないというタスクがありますよね。すると、PASSION FOR INOVATIONというのが彼らの価値観のひとつなので、目標管理の項目にPASSION FOR INOVATIONの項目があるんです。

宮嶋
へぇー。

長本
で、各々が一人ひとりの立場でいかにイノベーションしたかについて登録しないといけないんですよ。そういう本当にディティールまできちんとすごく生真面目に仕組み化している。そういう細部まできっちりしているところって日本って似てるしね。

そこで思うのは、細部までしっかり決めて、それを継続していくことについて実行していくことに対して努力していることが大事なんじゃないかなと思っているんですけどね。

宮嶋
それ面白いですねぇ。言ってみれば週1回努力して弁当を食べることを徹底するわけなんですね。やり続けるっていうのはそういうことかな。