介護に関する選択について-(鼎談)島田潔医師

もしご自身が介護問題に直面したとしたら?なんとかなるって思っていませんか。でもそれは選択肢があるうえでの「なんとか」なんだってことが、この鼎談をよむとわかります。

熱いぜ!ミドルマネジメントとはみどり会の冊子企画として生まれた”ミドルマネジメントへエールを送る”をテーマとして毎月開催される対談企画。対談の様子を全文テキスト起こしで掲載しています。(取材、撮影:平世将夫)
島田 潔さんのプロフィール
医師、板橋区役所前診療所院長/医療法人社団 平成医会理事長
帝京大学医学部卒業。東京大学医学部付属病院内科研修医。その後、東京都老人医療センター(現 健康長寿 医療センター)心臓血管疾患集中治療室。「自宅に医療を届ける」ことの重要性を認識し、再入院を予防する「医療部隊」を地域に展開することを目的に1996年「板橋区役所前診療所」を開設。介護保険制度の発足以降はヘルパー事業所やケアマネ事業所、訪問看護ステーション、 通所事業所などの開設運営を手掛け介護保険制度にも精通。2006年、制度化された「在宅療養支援診療所」の名称と届け出要件は島田の考案による。 厚労省の依頼で国際医療福祉大学大学院高橋泰教授と共に制度設計を手掛けたものが採用され、今日の在宅医療の普及と発展に繋がる。 地域在宅医療を手掛ける診療所として全国でも有数の規模を誇る。2013年精神科専門医が企業のメンタルヘルスを全面的にバックアップすることを目的に医療法人社団平成医会を設立。

介護問題に向けて“備えておくべき”こと

島田 親父が具合が悪くなったときに、たとえば兄弟仲が悪いときはどっちが面倒みるの?という話になるわけですよ。そんな時にね、「みんなで面倒みてあげようよ、長男の嫁、次男の嫁、長女、長男がそれぞれ当番でいく日は交代制にして負担を分散しようよ」とかですね。誰かが旅行に行くときは、じゃあ私が代わりに見るねとかも含めて。そうなると結果としては親が一番幸せなんです。

それができないならショートステイとかに預けるしかないんです。悪いとは言いませんが、そればっかりってワケにもいかないですよね。やっぱり家族、兄弟仲を良くしておくことじゃないですか。

宮嶋 これはもう明快なお答えですね。仲良くなければ亡くなったあともトラブルになりますしね。

前田 ぼくもお墓問題でつばぜり合いになった様子を見たことがあります。肉親だからこそ確執しますよね。

島田 兄弟の仲の悪さって兄弟間だけではないんですよね。親自身が「あいつは認めん」「長男は認めんぞ」「あの嫁は気に入らん」という問題もあるんですよ。そうすると親と仲がいい人が説得しないといけないんです。「まぁまぁ、嫁さんも頑張っているじゃないの」とか仲裁ですよね。そんなふうに融和をすすめる役目もありました。

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前田 さすが先生(笑)。

宮嶋 その流れでいえば話が脱線しちゃいますけれど、結構な修羅場をご覧になられているはずですよね。

前田 以前チラっとお聞きしましたけれど、先生のご経験はちょっとすごいですよ。

島田 医者ですから、相続の前哨戦を見ますよね、生きているときに関わっていますので。

前田 お言葉を選ばれながらでしょうけれど、叱りつけたことがあるって以前言ってましたよね。「待て待て!」って仲裁に入ったこともあるって(笑)。

島田 えぇ、ありますね(笑)。

宮嶋 死って非日常的じゃないですか。いざ直面した時に人の本質って出やすいんですかね。

介護にかかるお金の話

島田 そうですね。もっと出やすいのは介護に直面した時ですね。 最初から介護をかかえない、という選択をする人も多くいるんですよ。どうするかっていうと、即老人ホームの手配をするんです。このハードルを低くしているには要因があって、『親が預貯金もっている場合』です。 

前田 へぇーーそうなんですか。

島田 自分のお金を使うとなると、“老人ホーム入居にこれだけのお金を払うのかぁ、やっぱり大変だけど自分の家で引き受けて…”っていう風に自分のお金の使い方になるから考えるんですよ。だけど人間って、自分のお金じゃないとその使い方を考える必要がありませんから、即老人ホームにいれちゃうって判断をしますね。

島田潔

「お義父さん、お金あるんだから、老人ホームの方が色々便利よ」って一言で決まったりします。そもそもお嫁さんは介護に関わりたくないって気持ちもあったりするでしょうしね。

前田 そういうケースの場合、親自身も「お嫁さんにみてもらうんだったら、夫婦、もしくは一人で老人ホームに行ったほうがいい」っていう選択もあるんですか?

島田 しっかりした人でそういう選択をされる人はいます。子どもの世話になりたくない。迷惑をかけたくないから、老人ホームに元気な頃から入居するという方もいますね。いわゆる高級老人ホームに入居する人のなかで自分で選択して入る人も「一部」います。でもほんの一部ですね。多くの人は子どもたちが介護の負担から逃れるための選択です。もちろんもうちょっと上品な理由、オブラートに包まれた言葉が並びますよ。“住宅事情が”とか、”子どもの受験が“とか色々と理由はつけられます。でも結果だけみれば、介護を抱えるか否かという選択はお金があればこそできる選択なんです。

前田 なるほどですね。逆を言えば…

島田 そうです。裏をかえすと在宅介護をされている人の全てが心きれいな親子関係かというと、そういうわけではありません。お金がないから介護を自分たちで抱えるしかない。選択肢がないんですよ。あとはそこまで自分たちのお金を使いたくないから、労働と支払いのトレードオフを考えたときに”自分たちでやっちゃおう“という選択肢ですよね。介護をしている人たちが人格者の集まりかというとそういうわけでもない。だから虐待ケースが起きるんですよ。

宮嶋 (ぼくが居住している)うちのマンションは高齢者が多いんですね。人形町(東京都中央区)、いわば下町ですから。ただ幸いお金をもっているおじいちゃん、おばあちゃんが多くて。話をしていると近くで火災がでた、ボヤ気味になったときにちょっと怖いから老人ホームに入居しちゃおうとかいう考えの方が結構いるんですよね。身寄りがないわけじゃないとは思いますが、自分の意志で老人ホーム入居を選択する人生の終い方っていうんですかね、いさぎいい人っているんだなっていまの話をお伺いしながら思っていて。

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島田 うん、いますよね。で、裏を返すと子どもとの距離が遠い人なんじゃないですかね。距離ってのは心の距離が遠いケースと、物理的な距離、何かしらの遠さがあるケースの2通りが想像できますね。またいい介護やっているお家ってのもありますよね。ちょっとだけ広めのご自宅。結構丁寧に、親兄弟の仲もよかったりしてというご家族。こういうご家族も結構いますよ。

宮嶋 なるほど、距離感という環境が選択させたりするんですね。

島田 しっかりした人だから子どもの世話にならないっていうことで、老人ホーム入居の選択をしているケースもよーくみてみると“ちょっと距離があるんだな”と感じるケースがあるってことなんです。老人ホームに入っている人をみているとそういう人は面会頻度が他の人と比べて少なかったりしますね。ご本人だけみれば立派な方なんですよ、人格者だし。だけど、それが故に子どもが距離を空けたかもしれない。そういう親って子どもからしたら遠いじゃないですか。厳格でね。

前田 近づきがたい雰囲気はあるかもしれないですね。

島田 そうそう。でもそういう方からみれば下の世代は可愛いからかわいがってもらえるんじゃないですか。歳関係なく。

“いい在宅介護の状態”ってなんだろう

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宮嶋 島田先生はたくさんのケースを診られてきたと思うんですが、“いい在宅介護の状態”ってなんだろうってとふと思うんですが、島田先生が考える“いい在宅介護の状態”を参考までに教えて頂けますか。

島田 では、両極のお話をしましょうか。1つは先ほどお話した、ちょっと広めのご自宅で、親と同居している子供がいる、いわゆる二世帯住居。さらに他のご兄弟も来たりしてね。介護状態になったおじいさんのご兄弟も出入りしているおウチ。こういうケースってのがあるんですよ。これはぼくがみていて最高にいい状態ですね。

でも、 そういう環境になるためには、ご本人が年老いて寝たきり状態になる前にきちんとしていなきゃいけないんです。ご夫婦でそれなりに、つまり持ち家をもっている経済力を身につけて。なおかつお人柄もいい。で、押さえるところをしっかり押さえている。例えてみればみんなが想像する“いい社長さん”像じゃないですか。人柄いいだけじゃダメなんですよ。それは条件であるけれども、さらに押さえるところをしっかり押さえているから、組織になっているんですよ、家族が。 

前田 うーん、家族を組織とみるのは面白いですね。たしかに人が2人いれば組織ですからね。

島田 でしょ(笑)どんなに年老いても親父の目が黒いうちは何も勝手に処分できないとかですね。最初に親父のところに、「どう?」って顔を出すようになっているとか。組織のように家族がいわゆる昔の家族制度のようにできている。しかもガチガチに権威的にやっているわけじゃない。俗にいういい会社の社長さんってそうじゃないですか。ガチガチで居丈高にやっているわけじゃなくて。社員がなんとなく「社長~!」ってご機嫌伺いに伺いたくなるような、話しかけたくなるような。この手の介護状態が最高の介護ですね。

宮嶋 あぁーなるほど。

島田 押さえるところを押さえるというのは、最終手段、例えば経済に関する決定権とかは最後まで手放していないんです。ある程度できることは子どもたちに託しているんだけれども。うーん、そうだなぁ。話しながら色々浮かんだりするけれど、この手が一番いいなぁという気がしますね。お父さんが亡くなったあとに、お母さんの面倒をみないといけないという時も威厳のある父親がいなくなると、お母さんのことはおざなりになっちゃうケースがあったりするんですが、こういうご家庭ではそういうこと起きてないですよね。

宮嶋 そうなんですね。

島田 もう1つのケースは何もなくても幸せになる方法です。生活保護を受けている身寄りのないおばあちゃん。この場合介護してくれるのは介護保険制度のヘルパーさんだったりするんです。でもご近所の人たちがおせっかいをやいて頻繁に顔をだしたりしてくれるってケースですね。こういうケースあるんですよ。これはもうお人柄ですよ、その人の。だって経済的に分け与えるもの何も持っていないんですもん。


[対談#3]最後に残るのは人格ですへ続く。