[対談]ミドルマネジメントが 思考停止になる理由―[古野俊幸♯4]

熱いぜ!ミドルマネジメント対談企画。第2回目のゲストに人事界隈ではご存じの方も多いFFS理論をベースとした最適組織編成(チームビルディング)を提供する株式会社ヒューマンロジック研究所の代表取締役 古野俊幸氏をお迎えいたしました。”思考停止っていうんですよ、それ“という声が思わずでたミドルマネジメントの研修現場。合意形成が早いのは決していいことばかりじゃない。「思考停止はなぜ起きる」をテーマに悩める人事部と経営者の方必読のテキスト更新です。

熱いぜ!ミドルマネジメントとはみどり会の冊子企画として生まれた”ミドルマネジメントへエールを送る”をテーマとして毎月開催される対談企画。対談の様子を全文テキスト起こしで掲載しています。(取材、撮影:平世将夫)
古野俊幸さんのプロフィール
株式会社ヒューマンロジック研究所代表取締役
関西大学経済学部卒。新聞社、出版・教育会社を経て、FFS理論を活用した最適組織支援のコンサルティング会社・CDIヒューマンロジックを1994年に設立。組織・人材活性コンサルティング業務に従事。現在に至る。これまで500社以上の組織・人材の活性化支援を実施してきた日本国内におけるチームビルディングの第一人者。組織人事監査協会理事、人材育成学会会員、NPOプロカウンセリング協会理事、筑波大学アメリカンフットボール部組織・メンタルコーチも務める。
主な著作:「組織潜在力」(プレジデント社)、「入門チーム・ビルディング」(PHPビジネス新書)、「適正配置と組織の最適編成マニュアル」(アーバンプロデュース刊)、「入門チームマネジメント」(PHP研究所)、「セルフコーチング」(PHP研究所)、「組織を変える!社員を変える!組織が変わる!」(中経出版)(ともに共著)など

物理的にないから、意図してシカケを作っていく

宮嶋なるほど。原体験ですね。

古野
ぼくらは「高質な原体験」と呼んでいます。高質な原体験というのは、自分たちでそういう経験を積んできた経験。たとえば学生時代だとか会社に入って何かしらの修羅場のような経験、研修じゃないリアルプロジェクトの経験を通して突き抜けた感を持っていればいいんです。だけどいまやっぱり減っていっているんですよね。これはハッキリと、ソニーやホンダの人たちもおなじようなことを言ってます。

(昔は)今の事業部長、本部長クラスのひとたちがいますよね。事業部長だとほぼ100%海外勤務経験があるんですよ。それが部長職、年齢でいえば5歳くらい変わるだけで、海外勤務経験者が半分くらいに減っていく。課長職になると3割が行ったか行かないかですね。

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宮嶋
その変化が起きたのは組織が大きくなったり組織構造が変化し始めたからですか?

古野
ものすごくシンプルにいうなら昔は人がいなかったですから、みんな行くしか選択がなかったということなんです。“お前行ってこい”といわれて“はい、わかりました”という世界ですね。そして全員が海外に出て行って。そこで何やったかっていうと、結局まだ基盤だとか何もない状態ですから、とにかく現地に赴任して自分で事務所借りて(笑)
 
販社みたいなパートナーがいるので一応販売はおこないつつ、工場の視察とかもやってですね。これくらい売れそうかなって考えて報告していくと“じゃあ工場建設やれ”って話になりますから、現地で工場建設地の土地探しから購入交渉して、建屋つくって人の採用をして。もう一通り疑似社長を体験するわけです。

宮嶋
うん、うん。イチから立ち上げを全部経験するわけですね。しかもアウェイで。

古野
それが3年くらい続きますよね。お話をきくと、その世代の人は殆どの方がそれに近いこと経験してきているんですよね。ところが先日いまタイに赴任している人と話をしていると「もう今はダメですよ」というんですよ。「え?何がどういうこと?」って聞くと「今は福利厚生が充実しているので子どもの学校まで見つけてきてくれるんですよ」なんですって。会社が至れり尽くせりで用意してくれる(笑)。だから自分は行くだけになっているんですよ。

宮嶋
国内転勤の延長になっているんですね。

古野
そうそう。しかも赴任すると海外手当とかでひと財産できちゃったりする。家買えちゃうらしいですよ。向こうでは会社がなにかと用意してくれるから、あまりお金使わないともいいますし。

宮嶋
なるほど。いってみればハングリーさがないんですね。

古野
ないです。昔は食中毒するとか当たり前だし、野垂れ死にんでもひょっとしたら誰も知らないかもしれない。それこそ本当に命懸けですよね。会社名を言っても誰も知らないんですよ。通信手段もいまとはまったく違うでしょ。何かヘンな日本人が来てるゾ、みたいに(笑)思われていたんでしょうね。

宮嶋
商社マンの人たちも昔そうだったと聞きますよね。たとえば内戦があればあるほど行くんですって。内戦がおわったあとのために。復興するためにトラクターが必要じゃないですか、とか。

古野
原体験は確実に減ってきていますよね、加速的に減っている。いまは特に大手メーカーで進出していない国なんてもうないわけですよ。まさに内戦真っ只中のような国以外にはほぼ進出してしまっているから、物理的にないわけですよね。そうするとどうやるかといえば、いかに仕掛けをバーチャルなものでもいいからつくっていくかという話になっていくんです。

宮嶋
おそらく、この冊子(注:みどり会広報誌Midori)を手に取られる方々っていうのは先ほどの話でカテゴライズするなら、ほぼ半数くらいの方々がきっと温室状態で育ってきた人たちですよね。温室だけれども、文化は何となく上の方にいる。下の世代をみるともう究極の温室のみですよね。

じゃあこの方々はどういう価値観を理解して、日々仕事や自分の部下に接すれば、意思疎通がうまくいくのかとか、いままでよりも仕事がスムーズにできるんじゃないか、というヒントがあれば教えていただけますか。
 
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いまあるものは続かない、から思考をスタートしない限り変わらない

古野
ひとつ面白い事例がありますよ。ある会社の事業部のトップからの“部長連中を鍛えてほしいと”いう依頼がありました。そこで1回研修を開催したんです。そのプログラムのひとつで面白かったのが[35分間という時間制限のなかで合意形成していく]というプロセスがあるんですね。

テーマは「あなたたちのチームはいま雪山で遭難かかっています。では下山を試みるのか、それとも助けをまって留まるのか」というテーマです。このテーマでの研修を今まで数百回以上やってきたんですけれども、一番早く合意形成できて会社の部長たちがここの会社の部長たちなんです。なんと1分で合意形成されたんです。留まるって。35分間あるのに。

宮嶋
へぇーーー。

古野
で言うわけですよ。「いやー、俺たちの合意形成早くていいでしょ」と。「いやいやちょっと待ってください」と。研修現場にはオブザーブとして社長も来ていたのですが、チラっとみるともう社長が横でうごめいているんですよ(笑)こっちは研修のプログラムで必ず合意形成プロセスを指摘するんですね。

部長たちにはいいました「なんでこんなに早いんですか」と。「問題と思いませんか」と指摘するんです。「いやいや、だって全員が留まるべきだと一致したんですよ、こんないい意思決定ないじゃないですか」と答えがかえってくる。
「ちょっと待って。他の可能性は一切考えなかったんですか?」というと「考える必要あるんですか?」とくるわけです。

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宮嶋
他の要素は検討すらしていないんですね。

古野
それ思考停止っていうんですよ、普通」ということをここで改めて指摘するわけです。社長もまずい、と苦り切った顔で45度位うつむき加減になっているんですよ。所謂業界トップシェアの企業で日本国内なら圧倒的独占企業なんです。外にいくと2、3番手くらい。でも今後は新しい領域をどんどん攻められてくるわけです。

いままで思いもしなかった角度から競合企業が参入してきている。で、社長は危機感もっていまの市場シェア70%を守るのがどれほど困難な時代に突入していくのか、もしかすると全部覆されるかもしれないっていう危機感を感じているのに、部長たちは能天気だね、と(笑)

宮嶋
なるほど、そういう研修でポロっと無意識に判断基準が出ちゃうわけですね。

古野
研修風景をみていて社長はそのことを再認識するわけです。ですから、これからのミドルマネジメントの人たちになにかヒントを、っていうのはやっぱり「疑え」ってことですね。そもそもこれでいいのかと考えましょうよってこと。まさにイノベーションのジレンマですね。極論でいうといまあるものは続かないということから思考をスタートしない限り変わらないじゃないですか。

宮嶋
諸行無常って言葉が平家物語にでてきますよね。あれに近いんですかね。常に同一性を保持するものはない、と。

古野
そうですね。ま仏教用語ですよね。まぁそういう「疑え」という意味でいうならぼくらの世代というか、ぼくの個性というか。世代でいうと、団塊世代はそれをやってきてるんですよ。学生運動、安保闘争、安田講堂じゃないですけど、結局ぶつかって潰すという。

宮嶋
既存価値を認めないんですよね。

会社が赤字になっても、キャッシュが減っても、自分ごとじゃないんでしょ

古野
既存価値を潰していくというね。それをやってきた世代のひとたちって、ぼくらの世代からみえると10年上の世代になるんです。ぼくが中学生の時期に学生運動のエネルギーが充満していた。今香港で学生運動が起きたりしていますよね中学生、高校生が自分たちの未来のためにスト、デモを決起するエネルギーすごいなって思いますよ。いまの日本じゃ起きることは想像し難いですよね。

あのエネルギーがミドルマネジメント層に求めているエネルギーです。自分たちのことを考えると、“このままでいいはずがない”という位置に立つということ。そこからあたらしい発想が産まれますよね、視点が変わるわけですから。だけどこのままでやり過ごせると思った瞬間に何も変わらない。変わるわけがないんです。

宮嶋
思考停止ってのは怖いですよね。

古野
ま、一般的には楽なほうを選びますよ。でも“これは続くはずない”と思った瞬間に危機感を感じますよね。「うちの社員危機感ないんですよね?」って相談されたときに、ぼくが一番最初に言うのは「一番最初にやるべきは給料を止めることです。振込やめましょう」です。振り込まない!もちろん法律的にできないですけれども(笑)何故振り込まないということをやってみればどうかという話になるかといえば、そうすると自分ごとになるでしょってことなんですよ。

会社が赤字になってもキャッシュがどんどん減っているっていわれても自分ごとじゃないんでしょ。毎月給料振り込まれてますものね。

宮嶋
現実問題、危機感は実感しにくいですよね。

古野
たとえばですよ。給料振り込まれなかったらどうしますかって考えてみてください。恐らく奥さんから電話かかってきて「今日振り込まれてないけど」って慌てふためいて、初めて自分ごとになりますよ。

経営者は自分ごとだから今月赤字だ今期赤字決算になったとか。株価下がってるとか、もう寝れないですよね。社員は寝れるんですよ。だって自分に関係ないもの。給料はきちんと安定的にはいってくる。だから自分ゴトにしちゃうんです。

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宮嶋
あーなるほど。それは確かに自分ゴトになりますね(笑)

古野
そうするとどうなるか。ミドルマネジメント層の責任が大きくなるんです。いままで自分ゴト、一人の食い扶持のことだけを考えていればよかったんですよ、究極的には。本来のマネジメントのタスクとして部下や担当しているチームの食い扶持を稼がないとダメ、稼げるようにしなきゃダメなのですから、もっともっといろんなことにシビアにならなければいけないはずなのに安穏としちゃっていますよねぇ。

宮嶋
そういう面は確かにありますね。