[対談]大切なのは「よし、じゃあ次は頑張ろう!」と思える仕組み―[井田高志#2]

今回の「熱いぜ!ミドルマネジメント」は(一社)リファイン就労支援センター代表理事の井田高志さんがご登場。井田さんは2013年からつ病の方の回復・改善や就職の支援事業を行われています。 

熱いぜ!ミドルマネジメントとはみどり会の冊子企画として生まれた”ミドルマネジメントへエールを送る”をテーマとした対談企画。対談の様子を全文テキスト起こしで掲載しています。(取材、撮影:平世将夫)
井田高志さんのプロフィール
一般社団法人リファイン就労支援センター 代表理事
1987年株式会社リクルート入社。株式会社リクルートスタッフィングの立上げから23年間、人材派遣・人材紹介に携わり、30,000人以上の派遣・紹介の実績を誇る。2009年から3年間、慈恵医大と連携した株式会社メディカルサーバント代表取締役社長として、医療に関わり医師・看護師をはじめとしたうつ病やメンタルヘルス不全者の回復・改善には欠かせない多くの人脈を得る。自らが27歳の時にパニック障害とメンタルヘルス不全を経験したが、それを乗り越えて、うつ病をはじめとしたメンタルヘルス不全に苦しむ方の少しでもお役に立ちたいという想いと使命感から50歳を機に、社会起業家として一般社団法人リファイン就労支援センターを設立。

 

人との関わり方が希薄になってきた結果、メンタル不調者がでてくる

宮嶋
かつての日本企業は、株式の持ち合いに代表されるように短期業績には、あまりうるさくなかった印象がありますよね。

井田
そうですね。

宮嶋
外資資本がはいってきたり、機関投資家からの圧力や、業績の悪化などの影響で株の持ち合い解消、系列から離れて短期業績を求められていくといった大きな動きがあって。

井田
はい。

宮嶋
すると当然ですが、社内にいる個人も同じようなことを求められていきますよね。日本企業って本来人材育成が得意だったと思うんですよ。それが崩壊しているっていうのがあるんでしょうね。

井田
人材育成はしなくちゃいけないんです。いけないんですけれども、いま宮嶋さん仰ったような流れの中で人との関わり方が希薄になっているんでしょうね。その結果どうしてもほったらかし、メンタル不調者がでてくる、という流れがあると思います。背景としては。

 

ロールモデルがいないってのは大きい

宮嶋
なるほど。いま面白いなって思ったキーワードが「昔は大人がいた」っていう表現ですね。

井田
そうそうそう。いまは大人がいないんですよ。

宮嶋
以前ある方とお話をして、昔かっこいい大人の人っていたよね、って話がでたんです。今もうはいないし、僕らが「かっこいい大人になれ」って言われても、その系譜が、バブル経済崩壊と共に断絶されちゃったよねって話になって。

井田
新卒採用の断絶とか研修スタイルとかいろいろ変わりましたしね。

宮嶋
もしかしたらミドルマネジメントの人たちって、「かっこいい大人になれ」って言われてると思うんです。でも現実はそうなれない。現実と理想のギャップで壊れていく人がいるんじゃないかなって、ふと思うんですよね。

井田
その道しるべがない、ロールモデルがいないってのは大きいですよね。もう目の前にいないわけで。期待されていてもロールモデルがなければ、何をどのように目指していけばいいのか分からない。そこがない気がしますね。

 

ワークワーク・エンゲイジメントが高い組織は、メンタル不調者は少ない

宮嶋
人の関係が希薄になった、というお話がありました。企業文化をはじめとして、業態や企業特性、あるいはベンチャー企業とか、IT企業が多いなど特性ってありますか。

井田
うちの中での集計数はまだまだ少ないですから、分析するまでには至らないのですが仮説として考えているのは、やっぱり業績を出していて、ワークワーク・エンゲイジメントが高い会社って、たぶんメンタル不調者は少ないんですよ。

井田高志氏

宮嶋
なるほど。それは興味深いご指摘ですね。

井田
ゼロじゃないですよ。一定の率でメンタル不調者は出現します。ただ組織が例えば『自己実現』や『熱意』『ミッション』『ワーク・エンゲイジメント』といったことをしっかり意識して経営されている、働いている人たちが多い職場は何とかやっていますよね。

宮嶋
ほう。なるほどなぁ。

井田
反対にリストラをしなきゃいけない、業績が悪いってなったら、これはもうメンタル不調者は出ますよ。だってワーク・エンゲイジメントが低下してるんですから。

宮嶋
はい。

井田
うまくいっている組織を運営するのが一番いいんですよ。サッカーでも、野球でも何でもチームってそうですよね。うまく行っているチームを指揮している監督にはメンタル不調者は少ないと思いますよ。“調子がいい人が集まっているから結果がでている”わけではなくて、“調子がよくて結果を出しているから不調者が減っている”という、逆転の発想だと思うんです。

宮嶋
まさに視点を変えて組織を見るわけですね。

井田
メンタルヘルス不全をケアしましょう、弱っている人を助けましょう、という風にむしろマイナスの圧力に向けることはないだろうと思うんですよね。むしろ好業績を出すために、ワーク・エンゲイジメントをしっかり確立させていくっていう方向になればいいんじゃないかと思いますけどね。

宮嶋
なるほど。

 

大切なのは「よし、じゃあ次は頑張ろう!」と思える仕組み

井田
2つのマネジメント、仕事の管理と人の管理という側面でいうと、人の管理の方がおぼつかない限り、ワーク・エンゲイジメントが活性化することは少ないと思うんですよ。

宮嶋
はい。

井田
「Aさんは短期業績の結果がでた!OK!」「B君は結果でてない!ダメ!」こんな評価だけじゃ、B君は腐りますよね。もちろん結果は大事です。仕事は結果を出すことを目標に取り組むことが前提ですが、プロセス評価もきちんとするとかも必要じゃないですかね。

宮嶋
どちらか一方だけじゃ片手落ちになりますね。

井田
ワーク・エンゲイジメントをあげていくには、成果だけを見ていちゃダメなんじゃないでしょうか。大切なのは「よし、じゃあ次は頑張ろう!」と思える仕組みですよね。なぜって、そうすることで、その人は腐りませんから、メンタル不全が発症しにくいんです。

宮嶋
企業文化ってのは、人事評価とも連動していますよね。

宮嶋邦彦
 
井田
えぇ。急がば回れじゃないけど、マネジメントはそこをもっと追求すべきです。理想ですけどね。だけど現実的に起きていることは真逆ですよね

宮嶋
はい。

井田
鬱病が発症したとか、調子が悪いって言ったらどうなるんだろうってことに怯えてしまう。それは症状に対する不理解、鬱病やメンタルヘルス不全、精神疾患に対する不理解ですかね。認識不足があると、「あー、やばいから休んで休んで…」ってなっちゃうんですけど、その一歩手前できちんと巻き込む仕組みをつくっておく、業績が出る環境を整備していけば、そもそもメンタル不調になる確率は少なくなるよねって話ですよね。

復職を受け入れるなら、「障害者手帳がないとダメ」って話す会社が多い

宮嶋
なるほどなぁ。ところで話を変えちゃうんですが、リファインさんに来られている方々のお立場というのは、どういった方が多いのですか。

井田
来られている方の半数以上が、復職者です。事業の定義は、障害者総合支援法に基づく、障害をもった人の一般就労の手助けです。世の中に同じような事業者は約2,000箇所あるんですね。

宮嶋1都道府県あたり40前後ですね。

井田
うち以外の事業所は、障害の身体・知的・精神の方々も含めてやっているところが多いです。僕らは精神領域に特化しています。

宮嶋
なるほど。

井田
かつて事業を起こす際に、大手企業に訪問したことがあるんです。いろいろお話を伺う中で、復職を受け入れるとしたら障害者手帳がないとダメですって話が多いんですよね。

宮嶋
ということは。

井田
そうです。要するに仕事、採用枠としては「障害者雇用」しかありません、ということなんです。例えば僕のような人が「かくかくしかじかで、現在離職していますが、就職するとしたら経営の仕事ありますか?」とか聞くとびっくりするわけです。そんな人こないから。でも、経営の仕事をしている人もいます。そういう人たちはだいたい、今までは自分で治していたケースが多いんです。

宮嶋
へぇー。

治療の第1選択肢は認知行動療法。だけど日本は、薬物が第1っていうほどに浸透している

井田
しかし鬱病の再発率というのは60%と言われているのですね。となると、一人で治すよりは認知行動療法をベースとしたリファインプログラムを受けて頂くほうがいいんです。WHOでも言われていますが、認知行動療法をマスターしていくことで、鬱病の再発率60%が10%、6分の1に低減すると言われています。

宮嶋
へぇ、ものすごく低下するんですね

井田
えぇ、WHOからエビデンスが発表されています。またアメリカやイギリスは鬱病の方は日本より多いんですよ。彼らの治療の第1選択肢は認知行動療法なんですね。2番目に薬物。日本は薬物が第1っていうくらい浸透していますよね。

宮嶋
確かに、すぐに抗鬱剤を処方されると聞きます。

井田
僕らはそれ、認知行動療法をやっていこうというわけなんです。僕がベンチマークしていたときに、”30歳そこそこの人材紹介会社をやってきたっていう人に、50歳の経営目指している人は、あんたに自分の人生相談したくないや“って思うわけですよ。

宮嶋
相談する側からすればそうですよね。

井田
そう。ですからうちはスタッフはみんなアラフィフで、リクルート系の人が多いんです。人材ビジネス領域、つまり人事や組織に関するプロフェッショナルを集めて、なおかつマネジメントをやったことがある。

宮嶋
なるほどなるほど。

 
(以降、キャリアの「開発」と「デザイン」と「マッチング」に続く)