[対談]短期的な業績を出すスキルと、マネジメントスキル―[井田高志#1]

今回の「熱いぜ!ミドルマネジメント」は(一社)リファイン就労支援センター代表理事の井田高志さんがご登場。井田さんは2013年からつ病の方の回復・改善や就職の支援事業を行われています。

来る2015年12月からストレスチェック義務化が始まり、ストレスマネジメントが企業に求められています。何かとストレスの多い現代。その背景やリファイン就労支援センターさんの取組を伺いました。「はたらくことを支援する組織を再思考する」きっかけになれば幸いです。

熱いぜ!ミドルマネジメントとはみどり会の冊子企画として生まれた”ミドルマネジメントへエールを送る”をテーマとした対談企画。対談の様子を全文テキスト起こしで掲載しています。(取材、撮影:平世将夫)
井田高志さんのプロフィール
一般社団法人リファイン就労支援センター 代表理事
1987年株式会社リクルート入社。株式会社リクルートスタッフィングの立上げから23年間、人材派遣・人材紹介に携わり、30,000人以上の派遣・紹介の実績を誇る。2009年から3年間、慈恵医大と連携した株式会社メディカルサーバント代表取締役社長として、医療に関わり医師・看護師をはじめとしたうつ病やメンタルヘルス不全者の回復・改善には欠かせない多くの人脈を得る。自らが27歳の時にパニック障害とメンタルヘルス不全を経験したが、それを乗り越えて、うつ病をはじめとしたメンタルヘルス不全に苦しむ方の少しでもお役に立ちたいという想いと使命感から50歳を機に、社会起業家として一般社団法人リファイン就労支援センターを設立。

組織にプレイングマネージャー型が多くなると、他人に気をつかう時間がない

宮嶋
メンタル不全者の方々に共通していること、例えば年齢層やお立場など「比較的ここが多い」といったものはあるのでしょうか。

井田うち((一社)リファイン就労センター)の利用者でいえば20代から50代まで全部いるんです。その中で発症者は40代が多いですね。

宮嶋
やはりそうなんですか。

井田
最近の新型鬱と呼ばれる症状では20代の方もいるんですが、社会的な責務を負うミドルマネジメント層、40代になって会社の中でのポジションが求められるとか、中間管理職で上からも下からも要求が多いような人たちは結果的に40代が一番多いですよね。

宮嶋
そうですね。

井田
ウチの利用者でも多いですから、恐らく世間一般的にも40代が一番多いのではないかと思います。

宮嶋
ということは、現代の企業というのは、40代つまりミドルマネジメント層の負荷がより多くなっていると考えられますね。

井田
まさに今日の話題そのものですよね。今の日本の企業における状況、たとえば私や前田さんは28年前にリクルートに新卒入社しました。当時のリクルートには課長いわゆるマネージャーという人が年長者でいて、庶務とよばれるアシスタント職の方がいました。

宮嶋
はい。

井田
この庶務の方がいってみれば裏のマネージャーみたいな感じ。お母さん的ポジションにいたんですよね。メンバーが6人くらいいますから、総勢8人で一つのユニットなんです。だから、それこそ生活のことまでお互い全部知っているんですよ。

井田高志さん

宮嶋
へぇー

井田
新人が最近調子がでない、売れないねという時に何をするかというと、そのお母さん的な庶務の方は「彼はいま彼女とうまくいっていないから」「フラれたばっかりだから」という仕事に身が入っていけない理由を結構知っていたわけですよ。

宮嶋
人数が少ないがゆえに情報が濃厚ですねぇ。

井田
そういうことを話せる関係性もできていたわけですよね、きっと。ところが今は1人で30人くらいマネジメントするわけですよ。しかもミドルマネジメント、昔でいう部長職の人はだいたいふんぞり返って新聞読んでいて(笑)

宮嶋
プレイングマネージャーではないケースが多かったですものね

マネージャーとは、“人の管理と仕事の管理”を担当する人

井田
人のことだけ見ていればいい感じでしたけれども、課長職くらいだとプレイングマネージャーになる人が多いですよね。自分も数字目標、ミッションを持って。自分の担当業務をこなしながらメンバーマネジメントもしなきゃいけない。

宮嶋
話し聞くだけで、広範囲ですよね。

井田
そうですよね。昔のリクルートはマネージャーといえば完全に“人の管理と仕事の管理の両方”を担当するんです。その分自分では数字は持たないんですよ。

宮嶋
まさにマネジメントなわけですね。

井田
えぇ。でも今はプレイングマネージャー型が多いものですから、人のことに気を使っている暇がない。すると目が届かないところがでてきてしまいます。つまり関係性が脆弱になりますから、マネジメントが機能しなくなります。すると上からも下からも槍玉にあがってしまうことも多くなります。

宮嶋
うーん。

仕事が増えて、人が増えず

井田
結果として残念ながら、メンタルヘルス不全になる可能性も高いんですね。振り返ってみれば、予兆とか兆しがあるのだけれども、その変化を誰もキャッチできなくて、発症していく人が多いんじゃないかな。

宮嶋
昔と比べて階層がフラットになってきた、ということも影響していますよね

宮嶋邦彦
井田
そうですね。

宮嶋
フラット、階層が縮まったがゆえに、ミドルマネジメントの人たちが見なきゃいけない人が増えて、簡単に言えば能力を越えて人をみることになってしまっている、と。

井田
そうですね。まさに、先週号のアエラに書いてありましたけれども、“仕事が増えて、人が増えず”という話ですね。

宮嶋
なるほど。

井田
先ほど言ったように、管理職でさえも自分の数字をもって仕事をしないといけない。そりゃあ誰でも、いくら能力が高いといわれる人でも時間は有限です。自分の仕事が半分あって、つまり営業なら営業で顧客をもって数字をもっている。その上メンバーの数字目標まで見なきゃいけないとなったら、やらなきゃいけない仕事が増えている分きついだろうとわかりますよね。

宮嶋
いやぁ、仰るとおりですね。

短期的な業績を出すスキルと、マネジメントスキルはちがう

井田
で、もう一つ、これも概ね当たっていると思う仮説ですけれども、昔はよくも悪くも年功序列だったじゃないですか。

宮嶋はい

井田
役職者、部長とか課長とかは必然的に40代、50代の方がなりますから、社会経験とビジネスマン経験と、個人としてのプライベートを含めた経験値があるんですよね。

宮嶋
はい。

井田
今起こっている問題というのは、30代で優秀で、仕事について結果を出してきた人がマネジメントさせられているってことなんです。

宮嶋
といいますと。

井田
その人は未婚です。そして自分のメンバーが30人いるなかで、50歳の人もいます、というシチュエーションが想定できますよね。この人が子どもの親権で揉めていたりする。すると仕事の生産性があがらなくて、フラフラになってしまいます。

宮嶋
そりゃぁそうですよね。

井田
家庭もトラブル、仕事もうまくいかなくて、メンタル不全になりそうだと。そんな時に、彼の課題とかを共有できるわけないじゃないですか。これは仮のシチュエーションですが、こうしたことがあちこちで起こっているということです。

宮嶋
はい

かつてとは職場の環境がぜんぜん違う

井田
かつてはそこに「大人」がいたわけです。社会的な、会社におけるね。その人たちに言えば、「◯◯さんが言うんだからそうだな」「おれも何かあったら◯◯さんに相談しよう」と頼れる存在としての部長がいるとかね。自分の生活面においても仕事面においても信頼できるし、相談しやすいという環境がありました。

宮嶋
なるほどなぁ。

井田
50歳の人が30歳のマネージャーに、20歳も年下にプライベートのこと相談しないですよね。できませんよ。そういういうことの積み重ねが、情報をキャッチできないということにもつながっているのじゃないかと思いますね。

宮嶋
なるほど

井田
マネジメントって2つありますよね。人のマネジメントと仕事のマネジメント。更に細かくいえば『仕事をどうやらせるか』ということと、『人材育成』があると思うんです。

宮嶋
えぇ。

井田
短期業績を中心とした経営手法の観点からみるなら、業績を出すためには、きれいごとでは言っている会社も多くありますけれど「人材育成」を考えることはできないじゃないですか。

宮嶋
ですね。人材育成は短期業績とは相反するものです。

井田
となると、いかに仕事ができるか。業務をドンドン推進できる方を優先しますよね。そもそも人材育成力があるから出世するというのは最近聞かないですよね。

宮嶋
ですね

井田
短期的業績を出した人が出世していく。じゃあ、その人が仕事の管理、人の管理ができるかっていうと、クエスチョンマークがつくこともありますよね。

宮嶋
そうですよね。

井田
と、いうことが、あちこちで起こっているので残念ながらメンタル不調者、メンタルヘルス不全者は増え続けている環境にあると考えています。

宮嶋
なるほど。

井田
これから、こうした環境が変化するかというと、かつてのような状況になるという見通しはたたないですね。グローバル化が益々進むビジネスシーンにおいて、日本だけ悠長なことは言っていられない状況があります。

宮嶋
えぇ。

井田
年功序列だとか終身雇用を捨てて、いま世界を市場として仕事をしようとしている時に、20世紀型の経営は成り立たない。そういう前提でやっていかないと企業は成り立たないけど、一方でメンタル不調者はでている。当分この方向は変えることはないだろうな、というのが世の中の方向かなと思いますね。