レポート「企業と社員を取り巻くストレスを考えるシンポジウム」(その2)~ストレチェックを活用したメンタルヘルス活動~

「ストレスチェック」という切り口で6月12日に開催された「企業と社員を取り巻くストレスを考えるシンポジウム」。2番めのセッションは「ストレチェックを活用したメンタルヘルス活動」として北里大学医学部公衆衛生学助教/江口尚博士です。

江口博士は企業の産業医を経て、MBAを取得。現在は北里大学医学部公衆衛生学で、ストレチェック制度をはじめ健康投資と企業価値向上の因果関係について研修をされている見地からの話が中心。

現在、組織風土や健康への投資と企業収益性の関係に関する研究に取り組まれているとのことで「ストレスチェックを形骸的にやるのではなく、より経営層が関与して行う事で、よりよい会社運営を目指すことができる」という観点がとても印象的でした。

「義務だからやらなければいけない」よりも「会社の経営状況をよくするために行うもの」

 
冒頭まず、ストレスチェックの基本的な考え方が講義され、ストレスチェック/メンタルヘルス疾患予防の段階として

  • 1次予防 メンタルヘルス不調にならないようにはどうすればいいのかの施策立案と実行
  • 2次予防 メンタルヘルス不調になっている者を見つけ、治療を行う
  • 3次予防 メンタルヘルス不調者が治った人がまたならないようにする施策を行う
  • という総合的な取組のなかで、今回のストレチェック義務化においては1次予防に厚生労働省が重点を置いている、との話がありました。

    つまりストレスチェック制度は、メンタルヘルス不調者を発見することや、メンタルヘルス不調の再発防止だけでなく、”ストレス状況の改善及び、働きやすい職場の実現を目指すもの”だそうです。未然防止は当然として、環境を整えることで、生産性を向上させることが目的だということ。
     
    メンタルヘルス不調が発生するのは個々人の責務ではなく、環境にも課題があるということが解っています。同じ仕事でも周囲の環境、サポートで人の反応は変化します。

    では1次予防として”どうすればいいのか?”という疑問に対して、江口博士は研究をもとに次のような取組を考えています。

  • 経営理念はどうなっているのか
  • 組織風土はどういうものなのか
  • 職場の一体感はどうなっているか
  • 経営理念とは、多様化する職場で共有された前提を意識的に構築する概念。組織風土は「直接的、間接的に知覚され、モチベーション及び行動に影響をおよぼすと考えられる測定可能な一連の仕事環境の特性」として定義されています。
     
    『組織風土が健康に与える影響』について江口博士は研究をされていますが、まずは従業員の事を考えた経営理念の浸透が重要なポイントになり、次に良い(とされる)企業風土と一体感のある職場作りが必要になるといいます。
    研究の中でも裏付けがされてきているとのことで、企業風土と一体感のある職場環境で仕事をすることができる組織では、メンタルヘルス不調者はとても少ないというデータがでているそうです。

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    またストレスチェック制度は「義務だからやらなければいけない」という姿勢よりも、「会社の経営状況をよくするために行うもの」と経営層が認識していく事が肝心であるといいます。単に人事部や総務部か、健康診断の1つの項目と考えて行うのではなく、経営層が全面に関与することでよりよい結果を生みます。よりよい結果とは、企業価値を上げる、経営状況を向上させるきっかけになるという意味です。

    ストレス状態を把握することで、経営理念や職場風土など、あらゆる要素を根本的な部分から改善すること、改善を検討することが可能になります。その結果、メンタルヘルス不調者を減らすことができ、且つ良好な経営を行えると認識することが重要だと江口博士は言います。

    ストレスに関する研究の現場では、メンタルヘルス不調者に対する対処療法よりも根本的なところに着目が集まりだしているそうで、そもそも出さないために、経営理念や経営そのもののコアな部分への取組と因果関係の研究が始まっているそうです。

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    コアな部分への取組を開始するには、まず経営層と人事総務部門、産業医、保健師がきちんと情報共有をし、円滑な運用を準備していく事から着手する必要があり、その結果[意味のあるストレスチェック体制ができる]のではないかとのこと。

    運用主体は法的に定められているように「衛生委員会で運用」する。つまり 個人の問題ではなく、組織の課題として捉えて取り組むとかなり違うとのことでした。

    江口博士のお話をきいて

    ストレスチェックという名称だけでは、その真意には気づかないものですね。12月からのストレスチェックで、高ストレス状態になっている人を見つけ、治療し復職しやすい環境をつくる事は重要です。しかし未然防止として「全体のストレス状況」はどうなっているのかを把握すること。「どうして、いまの状況になっているのか」という原因を仮説かし、因果関係を探ることで抜本的に改善をしなければ、メンタルヘルス不調者が出続ける可能性がありますね。

    例えいまはゼロでも「どうしてゼロなのか」を把握できていなければ、それは「たまたまの結果」としてのゼロかもしれません。

    経営層が主体となり、根本要因を探り、(あるいは把握する仕組みをつくり)、解決することが経営改善。そういう視座で捉えることができれば、ストレスチェックの導入も「せっかくやるんだったら、根本から改善しよう」という取り組み姿勢に変化するかもしれませんね。

    レポート「企業と社員を取り巻くストレスを考えるシンポジウム」(その3)につづく)