社員に向けた介護支援の取組が『安全安心の職場環境を創る』【勉強会レポート】

こんにちは、堀尾です。「社員に向けた介護支援の取組が『安全安心の職場環境を創る』」という内容で8月4日(木)に弊社会議室(東京都文京区)に開催した、定例勉強会のレポートをお送りいたします。

今回はケアポット株式会社 代表取締役社長の高橋佳子様に登壇いただきました。高橋様は短大卒業後、3社を立ち上げ経営を行っていましたが、ある日急にお母様の介護に直面したというご経験をお持ちです。その経験を活かして「かいごに楽しさをプラスする」をテーマに、2015年に同社を設立されました。

誰しも直面する可能性がある「介護」について企業はどのように向き合っていくべきか、最新のトピックをまじえてお話しいただきました。

介護を取り巻く社会状況

安倍首相の進めるアベノミクス「3本の矢」のなかの一つに、「介護離職ゼロ」がうたわれています。2016年の現在、年間約10万人もの人が介護離職をせざるを得ない状況となっているようです。もちろん、働きながら介護をする人もいます。その人数は約240万人。また水面下でそのような状況になっているのではないかと推察されている人数は約1,300万人にのぼるそうです。

ひと昔前に比べて兄弟姉妹数が減少していたり、共働き世帯の増加といった家庭環境の変化という社会背景もあり、わたし達一人ひとりが介護に直面する可能性は高くなっています。厚生労働省が実施した「仕事と介護の両立に関する労働者アンケート調査  icon-link  (平成25年1月)」によると、介護離職した理由の1位が「仕事と手助・介護」の両立が難しい職場だったため」であり、6割以上にのぼっています。

勉強会の様子

ただし介護には個人の置かれている状況の違いが大きく影響し、一概に捉えられるものではありません。今回の勉強会では、一般情報として知っておきたい数字とともに、企業としての注力点や課題を中心に見ていきます。

企業が理解しておきたい経営リスク

企業マネジメントの視点からすると、介護が必要になる環境は突然生まれがちなゆえに、困る事態に陥る可能性があります。年齢があがるにつれ、徐々に介護にむきあう必要性が高まりますが、直接的に介護状況になる大きな原因のひとつには、脳卒中があるのだそうです。つまりある日突然、自由がきかなくなって介護が必要になるという状況が20%以上にのぼっているのだとか。

統計的には40~60歳代の人が、介護の担い手として全体の8割以上を占めています。特に50代は最多です。この世代は仕事においてはベテランで、意思決定者として、チームを率いる立場としても主となる世代です。また部下育成にも力を発揮します。このような人が、ある日突然、チームから抜けてしまうことを、どのようにしたら防げるでしょうか。

介護制度はジブンゴトにならないと意識しない制度

仕事と介護の両立のために、すでに整えられている法制度には次のような制度があります。

  • 介護休業制度
  • 介護休暇制度
  • 介護のための勤務時間の短縮等の措置

たとえば介護休業制度を使うと、対象家族1人につき、要介護状態になるごとに1回、通算して93日まで介護休業を取得することができます。この制度は同じ症状に対して1回しかとれない、ということから取得可能日数が多いにも関わらず、使い勝手が悪いところもありました。しかし来年から予定されている「育児・介護休業法」の改正では分割して取得が可能になる予定もあり、いざ困ったときに活用できる制度の一つになりそうです。

平成24年度の「仕事と介護の両立に関する実態調査のための調査研究事業報告書」によると、介護休業制度を使った割合はわずか3.2%でしかありません。使わなかった人にその理由を尋ねると、「介護休業制度がないため」を選んだ人が、離職者の45.7%にのぼっています。つまり本当は使える規定があるのに、それを知らないという事態が起こっているそうなのです。

社内への周知=インターナル・マーケティング

企業側、企業人事の役割としては、情報をまず伝えていくことが重要であろうという話が、講演後の意見交換において及んでいきました。ただし、人事担当者も介護領域のプロではないので、自身ですべてカバーするのは難しい面もあります。どこにいけばわかるか、何を見たらよいか、そうした情報の橋渡しになっていくことができないだろうかという意見交換が行われました。

一方で、「あの人いつも帰ってしまうよね」と、事情を知らない職場では心無い言葉を言われてしまうこともあります。職場の理解、フォローしあえる業務の工夫、そして制度があるのを皆が知る、というところから、固めていく必要があるのでしょう。

みなさんの会社でも設置されているかもしれませんが、休暇も法定休暇以外に工夫している会社があります。法定休暇というのは年次有給休暇、育児休暇、介護休暇、生理休暇ですが、同じ介護休暇でもたとえば次のような取り組みを行っている会社があるそうです。ポイントは、社員がうまく仕事と介護を両立できる制度にしていくことです。

  • 要介護レベルではなくても取得できるWLB休暇 最大90日
  • 育児・介護に手厚い看護休暇
  • 親孝行休暇

なお、前述のとおり育児・介護休業法は来年改正の予定であり、たとえば今まではできなかった半日単位での休暇取得が可能になったり、取得となる判断基準の見直しなどが行われていきます。
(詳細はこちら:http://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/0000130583.html

育児・介護休業法の改正の説明シーン

 

意識を高めるべき企業の役割

一方、法改正のなかで、企業の役割も一層重視度が高まっています。従来「介護休業の取得を理由とする不利益取り扱いの禁止」というのがありました。今後は「介護休業等を理由とする就業環境を害する行為をすることがないよう防止措置」をとることが義務化されきます。つまり、社員への周知や啓発、相談体制の整備などをより整えていくことが求められる方向にあります。

ただ現在、自社社員が何に不安を感じているのか、把握していない企業が大半ではないでしょうか。今回の勉強会では、先進的な取り組みを進める企業の話も紹介がありました。ある会社では、「仕事と介護の両立実態調査アンケート」を全社員に今年4月に実施したそうです。ダイバーシティ推進室を中心に進め、アンケート内容は、厚生労働省の出している項目+オリジナル項目という構成での実施でした。(厚生労働省が出している調査票はこちら

社員一人ひとりが適切な使い方をできるようにするためには、たとえば次のような働きかけを進めるのがよいのではと、高橋さんは指摘しています。

アンケート調査による実態把握
社内での意識喚起や、職場で話題に出しやすくするきっかけにもなります
制度設計・見直し
利用しやすいものになっているか、周知・運用が図られているかを改めて検討します。また仕事と介護の両立を支援する企業であるという方針の周知も重要です
具体的な情報発信
情報をきちんと提供できる先があること、相談窓口の提供や紹介についてなどを発信していくことが、社員の抱え込みを減らすことになります
はたらき方改革・風土づくり
中長期視点で、様々な立場の人が働きやすいようにするために、働き方や仕事の見える化、理解しあえる風土づくりなどを改めて考える機会にもなります

制度設計に使える助成金なども東京都や厚生労働省にありますので、人事担当者としても広く情報収集をしていくことが有効です。情報提供をすることが介護離職防止になるという調査結果もありますので、早めに企業として考えていくことが必要になってくるのでしょう。

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コミュニケーションのきっかけをつくろう

講演の最後に、高橋さんの会社がつくった「親ブック」というツールを紹介いただきました。

仕事と介護の両立のためのポイントは、

  • 職場に「家族等の介護を行っている」ことを伝え、必要に応じて勤務先の「仕事と介護の両立支援制度を利用する」
  • 介護保険サービスを利用し、自分で「介護をしすぎない」
  • ケアマネージャーに何でも相談する
  • 日ごろから「家族と良好な関係」を築く
  • 介護を深刻に捉えすぎずに、「自分の時間を確保する」

の5つとのことですが、4つめの「家族と良好な関係」は意外と無意識に流してしまいがちです。特に親とのコミュニケーションは、大人になるにつれ減っていってしまいがちなものです。

この「親ブック」は、自分の親の人生を様々な角度から聞けるようになっており、親とのコミュニケーションを深めると同時に、介護や病院に行く際に必要なちょっとした情報をためていけるものです。仕事と介護の両立を考えるワークショップを実施した企業では、このツールをきっかけに職場の人同士でも話が盛り上がったこともあるそうです。

親ブック

今は、育児と介護が同時に必要になる「ダブルケア」という状況も多く起こってきています。今回の参加メンバーの中には、在宅テレワークを導入しようとしている会社の方もいらっしゃいました。本格導入となるきっかけの一つに、育児や介護で会社を休む人の影響もあるそうです。勤怠管理やシステムなど過渡期の移行は大変な面も多いようですが、働きやすい環境を整えることで成果を出せる組織づくりが進むと、実際に動き始めていらっしゃいます。

本日のポイント

本日のセミナーでお伝えさせていただいたポイントは次の4つです。

  • 企業の人材マネジメントにとって大きな影響が生じるテーマである
  • アンケートによる現状把握は有効な基礎情報となる
  • 介護に直面する可能性は高いけれども、制度などの知識や情報があれば対処できる
  • 日頃の関係性づくりは、ちょっとしたツールで高められる

仕事と介護の両立をしっかりと進めるという会社のポリシー、使える制度構築、そして適切な情報提供が、いきいきと働ける職場づくりに必須であることを改めて感じた機会でした。

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