戦略人事の重要性に着目し、世に働きかけてきた須東朋広氏の経験と価値観

須東朋広氏は、CHO/CHROの役割について早くから着目し、2004年に著書の一人として「CHO~最高人事責任者が会社を変える」を発刊しました。
  

戦略人事の重要性に着目し、世に働きかけてきた須東朋広氏の経験と価値観

須東さんは、人事関係者のコミュニティづくりや実践知の収集・発信を続けてこられました。また現在は一般社団法人組織内サイレントマイノリティを立ち上げ、組織に所属する一人ひとりが能力発揮できるための支援・組織開発や職場環境づくりにも注力されています。組織力の源泉とは、人事の役割とは、そして須東さんご自身の考え方の背景にあるものは、などについて伺いました。

ビジネスを知り組織成長に貢献する

 CHROや人事が必ず押さえなければいけないのは「人」への理解だと思いますが、同じくらい重要なのが、「ビジネスを知る」ことだと思っています。事業責任者クラスまで詳しく知る必要はありませんが、 自社がどういう環境下でどのようなビジネスを進めているかを把握してこそ、採用も育成も異動配置など的を外さずにできる。 その点で、自社ビジネスとそれを取り巻く環境変化への感度は欠かせません。

組織成長に向けてよく耳にするのは、「新規事業をつくらないといけない」「新規事業を担えるリーダーがいない」といった課題です。確かに常に新しい挑戦がないと成長の芽がなくなってしまうでしょう。しかし、新規事業はそう簡単に生まれるものではありません。

これまで様々な組織事例を見る機会がありましたが、新規事業が成功している場合には「これを絶対にやりたい」「これをどうしても実現するんだ」といった情熱を持った人材が必ず根本にすわっています。こうした情熱こそ成功のカギだとすると、人事の役割は、「人を知る」ことです。きちんと一人一人にリーチして、何か内なる熱いパッションを秘めている人がいたら、その可能性をマネタイズするために詳しそうな人とセッテングしてあげることです。

須東朋広氏

そして情熱のやる気スイッチを押して、見守りながら社長や役員、上長の中で支援してくれそうな人を探し、支援してくれそうな人のやる気スイッチ入れてもらうことです。情熱と支援のやる気スイッチのマッチングこそ重要です。そのためには常にビジネス感度を上げるための情報収集や社内外ネットワークの構築に励まないといけません。

その一方で「組織の保有している力」、自社のコアコンピタンスと組織文化をしっかり把握することです。見当違いの領域で個人の情熱を発揮しても、個人の自己満足に終わってしまいます。人や組織の能力も的確に把握しておかないと、打ち手の判断ができません。特に環境変化の激しいなかで、「変えるべきものは何か、守るべきものは何か」という葛藤にどの組織も常にさらされます。

その選択の際に、 コアコンピタンスの理解、そして組織文化の理解は欠かせません。採用の際にも異動の際にも、また組織再編を考える際にも、コアコンピタンスを活かさない選択や、組織文化とかけ離れた選択をしてしまうとかえって力を弱めてしまう恐れがあります 。的を外さず強みを伸ばす判断ができるCHROであるためにも、必要な点です。コアコンピタンスを見極め、組織成長に向けた新たなチャレンジが実行できうる組織もしくはポテンシャルを持った人材がいるかどうかを経営者に進言できるかがとても重要です。

社員一人ひとりに目を向ける人事のあり方を追求

ひとつ気を付けたいのは、「人」に関する基本的な姿勢です。短期的には人の能力を最大限発揮してもらい、自身のポテンシャルを含めて才能を開花させることでビジネスの成功と連動させていくことが求められますが、中長期的には社員一人ひとりのキャリア発達に寄与できるものでないと、持続しません。この両方を進められる会社が将来にわたって成長していくのです。

そもそも人はどのような心理的メカニズムを持つのか、組織風土はどのように醸成され、何に寄与するのか。そうした基礎理論を知っておくことが、組織フェーズの課題にあった施策選択を可能にするのです。わたし自身、人に関心を持ったのは最初にある事業会社に入ったときでした。

須東朋広氏><br />
お客さんからの信頼、社内での交渉など、ビジネスにおいては何につけても人と人との関係が影響することを実感したことがきっかけです。そこで関心を持ち、心理学や人事の勉強をはじめました。大学院にいったりキャリアカウンセリングを学んだりと幅を広げ、後に入った人材系の会社では各社の人事部長たちと交流を持ち、発展してCHO協会を立ち上げました。</p>
<p>この間、変革・成長期における人事の役割をずっと追いかけていたのですが、社員を一律に見るのではなく、一人ひとりに目を配ることの重要さにある時気づきました。ダイバーシティ雇用に関するテーマの仕事に取りくんでいた際に、一人ひとりの違いをしっかり受け止めて経営している会社の事例を知ったんです。ダイバーシティ&インクルージョンと以前から言われていますが、本当に実現できている会社はまだ少ない。でもやろうと思えばできるはずだし、それが結局企業の力を高めることになると思っています。</p>
<p>どういう人であれ、それぞれ能力は持っています。だから「この人は力が発揮できていないからダメ」と決めつけずに、一人ひとりに対して「何をやりたいか」とか「どうしたいのか」っていうのを常に聞きながらその人のポテンシャルを引き出していけたらいいですよね。<span class= 職場のリーダーとCHROがしっかりタッグを組んでそれをしていけると、人の力が発揮され、組織力が高まり組織の成長が進みます 。個人も仕事を通じた良質な経験ができることで自己効力感が高まり、さらなる能力発揮が進むのでまた組織に寄与するというサイクルが進みます。

「結果の質」を高めたいなら、「関係性の質」に着目して打ち手を考える

様々な理由で力を発揮しきれない状況に置かれている人も、組織には少なからず存在します。そういった問題意識から組織内のサイレントマイノリティを支援するための団体を立ち上げました。ちゃんと本質に向き合いたいのに「なぜなぜ」と聞きすぎるがゆえに煙たがられてしまう人、まっとうなことを言っても生意気だと片づけられてしまう人、または不本意な評価をされて活躍できずにいる人などがいますよね。

なかなか活躍しきれずに過ごしている人がもっと声をあげられるように、もっと自由にものを言える・言い合える文化づくりが進むように働きかけたいと思ったためです。
他にも、新卒入社した会社で一律的に特定の職種に配属されて、本来活躍できる特性を生かしきれずにいる人、一定の尺度でしか評価されない環境下で、特徴が理解されずにいる人もいます。 “組織の中でミストがかかっているような人”というイメージを持っていますが、組織で存在感が出せず、発言もできなないことがあります。

須東朋広氏

自由にものが言い合える組織文化であれば自然にそんな状況ではなくなり、結果的に能力発揮もできるようになるはずです。「それいいじゃない」「そういう考えがあったのか」といった発言が行き交う組織文化、個を一人ひとり見ていくことに重きを置く組織の姿勢、そういったことがもっと広まればと思っているし、わたし自身もそこに関わっていけたらと思っています。

ダニエル・キム氏の提唱する「成功する循環モデル」にもありますが、人と人との関係の質を変えることが思考を変え、行動を変え、よって結果の質が変わります。職場での関係性を変えたり高めたりしていく働きかけが戦略人事の考え方の中でさらに重要になってくると思っています。近年、企業におけるリーダーの定義が変わってきているのも感じています。今までは数字を上げられる人、結果を出せる人にまず注目が集まっていました。

もちろんそれは重要ですが、最近では”人に関心があり成長支援したい人”が上位ポストにつく資質として重視されてきています。各現場のリーダーが人に関心を持ち、一人ひとりの能力を高めることに熱意を持ち、そして誰でも発言できるような組織文化が定着することが、CHROの目指す状態ではないでしょうか。

須東朋広氏

編集後記
「ビジネスを知る」「人を知る」というシンプルな二つをまず押さえることが重要だという話は、長年人事領域に携わられてきたなかで導かれた確固たる言葉に聞こえます。どんなに施策を工夫しても、社員が納得してくれないと白けるばかりでしょう。人はどういうときに力を発揮するのかを知っているだけで、伝え方やメッセージのつくり方を工夫し、ずいぶんスムーズに施策導入できる場合もあるはずです。シンプルで基礎的なことをしっかり押さえることが万事に影響するということを、一貫して語っていただいた気がしました。