事業に寄り添い、「人」のトレンドを踏まえて必要な打ち手を次々に提示していけたら【CHROの肖像】

プロフェッショナルボードメンバーが語る、成長期企業に必要なポイントとCHROの機能

[堀尾司さんの考えるCHROの肖像]
自社事業への関心と理解、人やキャリアの社会的トレンドをいちはやくキャッチ、そして事業と人事をリンクさせる力。この3つを兼ね備えて事業の意思決定と同じ速度で人・組織面の陣頭指揮をしていく人。
 

「働く人によって経営成果が変わる」ことを説き、推進し続ける立場

Q :今、必要とされるCHROとはどのような存在なのでしょうか。

堀尾 以前だったら、上が決めた経営方針に沿って計画をたてていっても、そんなに内容がずれることはなかったはずです。ただITバブルがはじけたあと、さらにはここ4から5年、計画したものがあまり意味をなさないことも多くなってきたと見ています。

たとえばメーカーの工場を想定しても、以前は計画的な生産と必要な人数や工数が見えていました。しかしAIが発達して非連続的な経済がめまぐるしく変わる中、先が見通せないことも出て来ているのではないでしょうか。

堀尾司
 
また働く人によって経営の成果が変わる、イノベーションの可能性が変わるというのも、ここ2、3年たくさん見聞きしてきました。そうすると、社長が考えたことを実行するだけでは足りなくて。人事の人が経営者と同じ視点で、もしくは人・組織に関しては陣頭指揮をとってやっていかないと、世の中の動きやスピードに追い付かないことが増えています。

その一方でサイバーエージェントさんやメルカリさんの様に経営と人事がうまく機能している会社もあります。CHROと呼ぶかどうかは別にしてHR施策を経営の一つに組み込み、かつ発信もしている例として注目されます。

具体的に考えると、たとえば 採用時には「こういう事業をやるためにこういう人を集めよう」と思って探すことが多い でしょう。しかし、いくら徹底的に適性を考えて採用したとしても、その事業が大きく変わってしまう場合が増えてきています。もちろん採用の入り口はそれでもいいのですが、 人材活用の考え方においては、「働く人でどういう事業がつくれるか」を考える スタンスに立たないと、なかなか戦略が立てられなくなってきています。

堀尾司

いる人を事業に当てはめるのか、いる人から事業創出を求めるのか。人に対しての軸が180度違うと思うんですね。どちらかが正解ではありませんが柔軟に考えられないと行き詰まってしまう場合が出てきてしまうでしょう。

事業理解のうえで有効な打ち手を設計。そして「人」のトレンドに感度を持つ

Q:CHROの役割を担う人に必要な能力やスキルはあるのでしょうか。

堀尾 一番重要だと思っているのは、事業に対する理解です。すでに形がつくられたものを推進していくだけの場合なら、仕事の内容だけ把握して、それを採用や評価設計に反映させてれば運用はできるかもしれません。しかし事業部では、そもそも形のないところから、事業を構築しています。

その事業が何を目指して、どんなことをやろうとしているのか。そうした根本的な理解や興味がないと、自社にあった人事施策を遂行できなくなってしまいます。

次に必要なのは、未来視点です。これは事業というより、これからの「人」や「キャリア」「働く」といった社会的なトレンドへの感度です。先に起こることを多少なりとも推測できないと、中期経営計画をつくるにしても、社長と対等に議論ができなくなってしまう。それは組織にとっても将来に備えられないリスクを抱えることになってしまいます。

そしてもう一つ必要なのは、人事をいかに「コストセンター」ではなく「プロフィットセンター」に変えていくかということです。事業をつくるのは人です。だから人事機能が担っている「人」への打ち手は、かならず「事業」と連動しているはずです。たとえば採用した人がどれだけ活躍し、業績をあげたか。事業が目指す成果に対して、人事の打ち手は的確であったか。事業と人事をリンクさせる力が CHROにはさらに求められてくる と思っています。
 
堀尾司

もちろん社長が人のことも含めてすべてのことをやることは可能です。創業期に近いころはそのような組織も多いでしょう。ただし、それでは絶対限界が出てきます。一つの事業、少人数の時代には可能なのですが、事業の多角化が進むと陣頭指揮を執る人も複数必要になります。ある一定のフェーズ以上に成長していくときには、戦略的な人事施策をとるかどうかが大きく影響します。

未経験の事態でも柔軟に対応できる人

Q:CHROへのキャリアとして積むべき経験はあるでしょうか

堀尾 基本的には人事経験ありきなのではなく、組織づくりへの関心を強く持てる人なら誰でも活躍できる役割です。ただ一つ難しいことがあるとすると、今までの人事の型を持っている人が、その成功体験にとらわれて打ち手をつくるばかりになることでしょうね。今までの型では何も通用しないことばかりが起きてくるので、それをやってしまうと自組織の可能性を狭めてしまうことになります。

CHROに限らず人事のキャリアをスタートするなら、採用担当から始めることを勧めします。労務関係も大事ですが、これは内外のプロフェッショナルに任せることができる業務です。一方、採用は事業理解が必須になります。また会社の未来を語らないといけません。必然的に経営の考えを理解し、代弁することにもなりますし、また事業部とのネットワークもつくっていくことができます。

こうした現場とのネットワークがあるかどうかで、CHROとして、また人事担当者としても、現場に沿った施策ができるかどうかに影響してきますね。何かあったときにやりとりできる事業メンバーがいるというのは大きいです。 

これらが不足していると、強い実行力と推進力が生まれないと考えています。サッカー日本代表のハリルホジッチ監督が、デュエルという言葉で戦術のポイントを表現しますが、それに似た感覚を持っています。必要となる経験の筋肉が不足し、デュエルが物足りない人事担当者の方をよく目にします。

Q:経営のパートナーとして、時には半歩先の視点から提案をしないといけないこともありますが、何かコツはあるのでしょうか。

堀尾 事業を理解すればするほど、事業の意思決定のスピードが肌感覚でわかるようになってきます。たとえば半年後のことを今意思決定しないと、半年後には脅威となる会社が現れて市場を席捲しているかもしれません。成長企業を取り巻くスピードはきっと想像している以上にはやいです。

半年先に他社に席巻されかねないと判断して、今、借り入れをしてでも人への投資をするかどうか。それを提案できるためには、市場や事業の理解がやはり基本です。経営者の強みとする領域以外に重点的にアンテナをたて、補完的役割として意識的に動くのも求められてきます。

的確な人・組織戦略がないと事業の発展も実現し続けられなくなります。その組織戦略は、自ら見聞きし、収集した情報に基づくほど説得性が高いものになります。 事業現場に寄り添い、かつ「人」の社会的トレンドを踏まえて次々必要な打ち手を提示していくことができたら――きっと、質の高い人材が集まり、活発な議論が交わされ、結果的に他を圧倒するような結果を生み出す組織になる はずです。
 

 icon-pencil 取材を終えて―編集後記―

CHROに必要なことを尋ねたときに出てきた第一の答えは「事業に関する理解」。特にベンチャー企業では、大きな方針はぶれなくても事業の構想やとりまく状況が刻々と変化することがよくあります。次の事業展開に対して、どんな組織設計が想定されるのか。どんな人が、自社の事業状況で力を発揮できるか。日々のちょっとした事業部の会話にアンテナをたてるだけでも、たくさんの情報が拾えるはずです。会社全体の動きを肌感覚で持ち続けられるかどうかは、機能するHR施策にできるかどうかに直結するような気がします。