成長期企業に必要なポイントとCHROの機能【CHROの肖像】

プロフェッショナルボードメンバーが語る、成長期企業に必要なポイントとCHROの機能

[前田徹也さんの考えるCHROの肖像]
トップの思いから現場の実態まで把握し、必要な「仕掛け」を率先して進めていくコミュニケーションの「司令塔」。会社の存在意義、目指す方向性をトップの右腕となって語るときもあれば、「For our company」の視点でトップに具申することもある。現場からの信頼も厚く、会社の土台を支える役割でもある。

経営の根幹メッセージを伝えるCHROという機能

Q.企業経営にとって、戦略的に人事を進めていくことはなぜ重要なのでしょうか。また戦略人事の責任者としてはどのようなことに注意すべきだと思われますか。

前田 常に変化にさらされる成長期企業では、人事という機能が組織を支えるうえで必要になってきます。 CHROというポジションありきなわけではありません。 組織の成長フェーズによって、誰が担うかは様々だと思います。専任担当者がいる場合もあれば、社長の右腕の人が担当する場合もあると思います。

必要な機能は大きく3点です。1点目は、経営理念や社長の想いに込められている、会社の存在目的を具現化していく役割です。会社の存在意義の根幹には「大欲」があります。ビジネスを成功させるという強い思いと同時に、ビジネスを通して何を成し遂げたいか、社会への還元という大義視点をトップは持っているでしょう。それはトップの生きざまとも呼応しています。

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こうした理念や想いのところにステークホルダーは共感し、応援します。株主総会で「社長応援しているぞ」と拍手が起きるとき、理念の示す世界を実現したいと社員がどんどんアイデアを出すとき、そこには大きなエネルギーが動いています。特に社員の行動には随分影響するでしょう。そこで組織づくりの土台として理念をしっかり伝えることが重要になります。

2点目にリーダーの発掘と育成を担うという役割があります。成長期には人の採用、配置、リーダー登用や任せて育てるということが速いスピードで進んでいきます。現在の経営者や役員陣に続き、しっかりと会社を支え、かつロイヤリティを持って取り組む人を見つけ、育てていくのは、人事の仕事になります。

3点目は、意思決定のプロセスを言語化する役割です。たとえば評価において、「なんであいつの評価が高いんだ」という不満はありがちです。そこでプロセスが言語化、可視化されていれば、不満の感じ方も変わるかもしれませんし、不満に対するフィードバックもしっかりできることになります。しかし言語化されていないと的確なフィードバックができず、また次の不満の種を広げてしまうかもしれません。育成も異動も、時には退職マネジメントも同様に意思決定のプロセスを言語化、可視化していくことが大事になってきます。

「For Our Company」の視点で議論できる組織に

Q.理念の言語化や具現化は、理解するだけではなく自身もコミットし、共感しているからこそできるのでしょうか。

前田 そう思います。会社での意思決定は戦略によりますが、戦略も細分化すると事業戦略、組織戦略、財務戦略、情報戦略の4つがあります。その中の 組織戦略の司令塔がCHRO です。コミュニケーションの司令塔ともいえるでしょう。そのためには、経営にコミットし、汗をかき、自身で体得しながら進めていくことが第一です。

さらに理念に限らず 何かを伝えるうえで大事なのは、自分の言葉で書くということだと思っています。シンプルですが、自分の言葉が入ると絶対伝わります。一番やってはいけないのは「社長はこういってました」と言うこと。 「社長のこの言葉の理解、私はこう思います。だからこのように考えますがどうですか」と言えば、相手は必ず伝わります。

経営が変わると意思決定のプロセスが変わることは往々にしてあります。たとえば大株主にファンドが入ってきたり、社外取締役の方を入れたり、そういうことでプロセスが変わっていきます。特に上場というのは様々な変数を生じさせます。その変化も含めてしっかり経営にコミットしながら、社内外をつないでいくことがCHROには求められます。

必要があればトップへの具申も出てくるでしょう。その時の視点は〝For our company″ですね。逆に、 〝For our company″の視点でしてきた提案を議論できないトップは判断を間違うでしょうね。 私自身も、トップからその視点で問われ続けてきた経験から学びました。

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「仕組み」ではなく「仕掛け」を変える

Q.組織成長を見据えて一歩先の施策を考えるべきでしょうが、日々の業務に追われて後手にまわりがちになります。何か工夫ができるでしょうか。

前田 「仕組み」ではなく「仕掛け」を変えるという発想でやることです。 仕組みを変えるほど大上段に構えず、日常業務の仕掛けをちょっと変えることで化学反応は置きます。反応が起きたら、その成功の公約数を仕組みにすればいいのです。 この順番でやると、無駄なく進められるようになります。たとえば、今までは人事部長が採用面接をしていたのを、現場の事業部長に面接してもらうようにする、というのも仕掛けの変化のひとつです。

実際にお手伝いさせていただいたある企業で、変革意欲のある課長が採用のやり方をちょっと変えました。まずリクルーターが変わります。そして任命する人が変わる、セミナーが変わる。そこから実際の採用者がかわる。配属になったときの先輩が変わる。事業部門の現場が「これまでに自社にいないようないい人が来た」とがんばる。ここから化学反応は起きていきます。

これまでの採用の課題を洗い出して分析して、より効果的なスキームをつくる…というような仕組みにいきなり取り組む前に、やれることがもっとあるはずです。

現在のやり方に限界がある、どこかで大きく変えないといけない、というのは成長期企業にはよく起こることです。よりよい仕組みにできたら言うことはありませんが、どうしようかと模索する間に、他の業務に追われてしまうのも事実です。今変えられる仕掛けは探せば結構あるはず。まずそこからやってみたらどうかと思っています。

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 icon-pencil 編集後記

「仕掛けを変える」という発想で考えてみると、いくらでも工夫ができるはずです。同じ内容でも伝え方の違いで、受け手の印象は大きく変わることがあるように、ちょっとした工夫や気遣いが効果に大きく影響することがあります。 現状を把握しながら「これをやったらどうなるだろう」という新しい発想を常にセットで思考するのが、CHROに必要な一つの特性ではないか 、と取材を通じて感じました。